発生主義と簿記


2018/10/31

決算というものを理解するに当たって避けて通ることができないことが「2つ」あります。それは「発生主義」と「簿記」です。発生主義とは利益を計算するための根本的ルールです。簿記とは決算の基である帳簿を作成するための方法です。

≪発生主義≫

発生主義とは?(収益と費用は発生の時点に計上する)

発生主義とは、収益と費用の計上を「発生の時点」にするということです。売上(収益)は販売の時点で、仕入(収益)は納品の時点でそれぞれ「発生した」と考えて計上します。要するに、利益(収益−費用)と収支(入金−出金)は違うということです。収益と費用は「入出金の時点以外」にも計上されるからです。

発生主義会計においては、入出金以外の「様々な時点で」収益と費用を計上しますので、そこには様々なルールが存在します。決算書の作成に当たってはそのルールを知り、ルールを守らなければなりません。

収益に関してはさらに実現主義が(収益は実現の時点で計上する)

発生主義の中においても、収益に関してはさらに実現主義というルールが求められます。実現主義では収益は確実で客観的になった時点に実現したと考えます。実現主義も入金を待たずして収益を計上しますが、発生よりもさらに進んだ「収益が実現した」時点に収益を計上します。例えば、売上は販売の時点で収益が実現したと考えます。ただし、この販売の時点は業種や業態によって様々です。

費用収益対応の原則

発生主義における利益の計算では、費用と収益は対応していなければなりません。これは「費用収益対応の原則」と呼ばれるルールです。売上と売上原価の関係はこれにほかなりません。売上という収益(成果)を得るために、売上原価という費用(犠牲)が生じているという対応関係です。

しかし、あらゆる費用と収益に対応関係を完璧に求めることはできません。たとえば、「給料」「交際費」「福利厚生費」「水道光熱費」「通信費」「社屋」の減価償却費や家賃などの費用は売上(収益)と明確な対応関係がありません。売上に対する売上原価のように売上との直接的な対応関係、つまり比例する関係はありません。

これらについては、一定のルールを前提に費用の処理をすることで売上との対応関係を確保します。そのひとつのルールが、売上と同じ期間の費用を計上するということです。一事業年度分の売上に対して、その同一業年度分の費用(給料や家賃など)を計上するという方法です。もうひとつのルールは、一定の仮説により費用を事業年度に配分するという方法です。有形固定資産の減価償却という設備や備品の取得代金の費用配分計算がこれです。

発生主義ならではの処理の具体例

◆売掛金に買掛金

売掛金とは売上代金の未回収部分のことです。発生主義においては、入金を待たずして売上を計上しますので売掛金という勘定科目が生じます。

買掛金とは仕入代金の未払分のことです。発生主義においては、支払いを待たずして仕入を計上しますので買掛金という勘定科目が生じます。

◆前払費用に未払費用

前払費用とは、家賃、保険料などサービスに関する料金を前払し、そのうちサービスの提供を受けていない部分をいいます。この前払費用に相当する金額は、すでに支払いをした記録とは別に、費用の一定額を減額する処理をしなければなりません。

未払費用とは、期間の経過に応じて発生する、借入金の利息、水道料金、電気料金、ガス料金、給料などで、すでに一定の期間が経過しているけれども支払期日が到来していないので支払いを済ませていない部分をいいます。未払費用は、支払いが済んでいないのですから帳簿には表われていません。そこで、未払費用が生じているならばこの処理をしなければならないのです。

◆在庫

納品された商品は仕入という費用勘定に計上されますが、その金額は販売された分と未販売の分に区分しなければなりません。販売された部分のみが売上原価として費用処理され、未販売の部分は在庫として繰り越さなければなりません。

◆減価償却

建物や車両などの固定資産は、長期間にわたって使用するので、減価償却という計算手続で複数の事業年度に配分して費用とします。

発生主義会計の長所

発生主義の発生という概念は大変抽象的です。しかし、次のケースを考えてみると発生主義には合理性があることを理解できると思います。

●自動車販売会社の「A社」は、本事業年度に100億円の契約を獲得し全て納品もしたけれども、代金の一部である20億円の回収は顧客(支払能力は十分)との約束で翌事業年度となる。なお、この事業年度中の自動車の仕入代金合計は85億円で全額支払い済である。

現金主義(入出金で収益と費用を計上するという方法)で計算すれば次のようになります。

収入(100億円−20億円)−支出85億円=マイナス5億円

発生主義で考えれば次のようになります。

収益100億円−費用85億円=利益15億円

●同じく自動車販売会社の「B社」は、本事業年度に80億円の契約を獲得し全て納品し代金も回収した。この事業年度中の自動車の仕入代金合計は85億円であるけれども、うち15億円は支払っていない(無理をお願いして支払いを待ってもらっている)。

現金主義で計算すれば次のようになります。

収入80億円−支出(85億円−15億円)=10億円

発生主義で考えれば次のようになります。

収益80億円−費用85億円=利益マイナス5億円

どちらがよい会社かは一目瞭然です。B社は支払いを延ばして窮地をしのいでいるにすぎません。

発生主義はごく自然な考えなのです。発生主義は経済の発展に伴って徐々に形成され、この先も変化していきます。会計数値には様々な利害が関係してきます(会社、経営者、株主、債権者、投資家など)。会計のルールは、利害関係を調整しながら発展していくものなのです。初めて会計を学ぶ人が理解に苦しむことや、専門家でも簡潔明瞭に説明できないのは当然のことです。

≪簿記≫

複式簿記とは?(世界標準の記帳方式)

簿記の方式には複式簿記と単式簿記があります。帳簿には様々な取引(入出金など貨幣価値で測定できる出来事)を記録しますが、複式簿記と単式簿記とでは取引の把握の仕方が異なります。

複式簿記では取引の両面を記録します。「売上が生じて現金が増えた」「仕入をして現金が減った」といった具合です。一方、単式簿記では、「売上があった」「仕入があった」といった具合に記録をします。

わが国に限らず世界中のほとんどの会社は複式簿記で帳簿を作成しています。市販されている会計ソフトも複式簿記の原理で帳簿を作成するためのものです。複式簿記で帳簿を作成するのが世界標準なのです。「複式、単式」という言葉にこだわる必要はありません。簿記といえば複式簿記なのです。

仕訳とは?取引とは?

仕訳とは、取引を記録することです。「取引」とは、入出金など貨幣価値で測定できる出来事で、「1万円で売った」「5千円で仕入れた」「電車賃3千円を払った」「現金を盗まれた」「倉庫が放火され全焼した」などのことです。「会議で有意義な議論をした」「優秀な人材を採用することができた」「お客さんに商品と社風をほめてもらえた」などは簿記での取引ではありません。

仕訳は帳簿を作成し決算書を作成するという一連のプロセスの最初の作業です。帳簿や決算書は仕訳の集計結果です。

勘定科目とは?

勘定科目とは取引を仕訳する際に、取引を分類し集計する単位です。「売った→売上」「仕入れた→仕入」「電車賃→交通費」「現金で支払った→現金」「資金を借りた→借入金」といった具合に取引を分類し、この分類ごとに集計するのです。

借方と貸方(試算表の集計場所のこと)

仕訳は左右同額で、左右それぞれに勘定科目を割り当てます(仕訳は左右しかありません)。勘定科目が左右のどちらになるかは、勘定科目ごとに決まっています。仕訳の左側を借方(英語ではdebit)、右側を貸方(英語ではcredit)といいます。この「借方と貸方」という言葉の意味に深入りしてはいけません。

大切なことは、仕訳を集計する試算表を理解することです。試算表には個々の仕訳で生じた左側(借方)の勘定科目は左に、右側(貸方)の勘定科目は右に集計します(試算表は左右しかありません)。仕訳は左右の金額が一致しますので、試算表の左右の合計金額も一致します。勘定科目によっては左右両方に金額が集計される場合がありますが、その場合は左右を差引したものが試算表での集計金額です。

この説明は簿記の教科書では必ずされていますので、この部分は必ず読んでください。会計ソフトでは、このプロセスはブラックボックスになっています。会計ソフトにも試算表と称する帳票がありますが、それは実質的には決算書(貸借対照表と損益計算書)と呼ぶべきものです。

取引を両面から把握する習慣を身につける

取引の性質を理解して、それを両面から把握することが大切です。

販売した(売上)・・・売上代金(売掛金、現金、預金)
仕入れた(仕入)・・・仕入代金(買掛金、現金、預金)
預金が増えた(預金)・・・売上代金の回収(売掛金)
預金が減った(預金)・・・仕入代金の支払い(買掛金)

取引、つまり記帳の対象となる取引には必ず両面があります。これが、仕訳(借方と貸方、左右)に他ならないのです。取引を両面から把握する「習慣」を身につければ、複式簿記は理解できるようになります。

複数の勘定科目が同時に変動する(取引の両面)

会計ソフトを操作していて、「入力した覚えがない勘定科目が変動している!?」「この会計ソフトには不具合があるのでは!?」といって驚く人がいます。ある勘定科目に入力をすると、もうひとつの勘定科目が必ず動きます。例えば、「事務用品を購入した→消耗品費」と入力すれば、現金や預金などのほかの勘定科目も動きます。これが複式簿記の特徴である両面同時の記録なのです。

増減する勘定科目

勘定科目には集計する一方のものと、増減して差引きの残高を算出するものとがあります。収益と費用は前者、資産と負債と資本は後者です。(収益と費用も、修正、つまり当初の額を減額するという仕訳をした場合には減少することがあります。)

仕訳の基データとなる帳簿(帳簿組織の構築)

仕訳は様々な基データから行わなければなりませんが、それらが個々バラバラでは仕訳の漏れや重複が起こってしまいます。そこで、次のような「帳簿組織」を構築し、これらの帳簿を基データとして仕訳を行います。

○売掛帳・・・販売と代金回収の記録
○買掛帳・・・仕入と代金支払いの記録
○現金出納帳・・・現金の出入りの記録(経費の支払いはこれに記録される)
○預金出納帳・・・預金の出入りの記録(経費の支払いはこれに記録される)

これだけの帳簿がそろっていれば、「売る」「仕入れる」「諸経費を支払う」という企業の活動の全貌を「網羅」することができます。仕訳の漏れや重複も防げるのです。

仕訳の結果としての帳簿(総勘定元帳)

仕訳の結果は総勘定元帳に分類集計されます。総勘定元帳は仕訳を各勘定科目に集計し、試算表にその数値を提供する役割を果たしています。それぞれの勘定科目が「何月何日に」「どれだけの金額が」「どのようなことが原因で」増減したかを記録した帳簿が総勘定元帳です。

会計ソフトの機能は、仕訳を入力して仕訳の結果としての総勘定元帳を作成することですので、仕訳の基データとなる帳簿は会計ソフトの外で作成しなければなりません(会計ソフトによっては販売管理ソフトや仕入在庫管理ソフトと連動させる機能があります)。

試算表は貸借対照表と損益計算書に分割される(精算表)

簿記の教科書では、試算表から貸借対照表と損益計算書が作成されるプロセス(精算表)が必ず説明されています。この部分は必ず読んでください。試算表から「資産」「負債」「資本(純資産)」に関する勘定科目を抽出すれば貸借対照表が、「収益」「費用」に関する勘定科目を抽出すれば損益計算書が作成できます。このプロセスも会計ソフトではブラックボックスです。

簿記にゴールはない!

簿記のメカニズムは非常に簡単です。

取引を仕訳にする(勘定科目に分類する)

勘定科目を試算表に集計する(そのプロセスが総勘定元帳)

試算表の勘定科目を貸借対照表と損益計算書に分割する

この簿記のメカニズムはすでに完成されたものなので、今後も変わることはありません。簿記は一度習得すれば、これを一生にわたって活かすことができます。それは「九九」と同じなのです。また、会計ソフトにデータを入力すれば、上記の作業は自動的にしてくれます。

しかし、それでも簿記(決算書の作成)は難しいです。

簿記での記録の対象となる取引は無数にあり、教科書で説明されていない取引に遭遇することも頻繁にあります。また、取引として記録しなければならない経済事象そのものは日々変化しています。仕訳は、経済事象の性質(本質や背後)を正確に理解しなければできません。ときには、経済事象そのものが、不明瞭、不透明なこともあります。この場合は、勘定科目はおろか金額さえ決まりません。

簿記に障害はつき物です。どこまでいってもゴールは見えません。簿記にゴールはないのです。

簿記と会計の違い(ゴールがないのは会計!)

簿記は上記のとおり、取引を集計して決算書を作成するという計算技術(方式)です。会計は、簿記で集計する仕訳をどのようにするか、つまり「勘定科目」「金額」「日付」をどうするべきかの理論や諸制度です。

簿記の計算技術はすでに完成した原理原則です。簿記はすでにゴールに達しています。しかし、会計は時代によって変化していきます。それは、会計の対象とする経済事象が刻一刻と変化しているからです。また、会計に対するニーズも変化します。時代によって会計が解決しなければならない課題は異なります。会計には次から次に解決しなければならない課題が突き付けられるのです。ゴールがないのは会計です。「今年はうまくいったので、来年も大丈夫!」は甘いです。

≪ルールは誰が決めるのか?≫

発生主義や複式簿記の説明をすると、「誰がそのようなルールを決めたのか?」「ルールに従わなかった場合はどうなるのか?」「自己流でも合理的であればよいではないか?」という質問を受けます。

会社法に以下のような条文があります。

【431条】株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。
【432条】株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
【614条】持分会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。
【615条】持分会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。

(注)有限会社も株式会社と同じ扱いです。持分会社とは合名会社、合資会社、合同会社のことです。

「公正妥当」「慣行」「会計帳簿」が具体的に何であるかについては会計や会社法の書物で必ず説明されています。その説明をお読みいただくと発生主義や複式簿記はルールとして受け入れるしかないということをご理解いただけます。