事業所得


2020/9/29

「自営業者は経費が使い放題で、いくらでも税金を減らすことができる」

「その夢」を打ち砕かれた人(自営業者)がほとんどだと思います。「記帳の大変さ」「申告手続の複雑さ」「税務調査の恐怖」、大変なことばかりです。誰も助けてはくれません。襲ってくる不安感と孤独感!

しかし、もっと大変なのは事業を継続することです(笑)。

「だから、収入の減少に備えて少しでも税金を減らしたい」

それが、そんなに甘くないのです。

事業所得の計算(収入−必要経費)

事業所得とは、「製造業」「卸売業」「小売業」「サービス業」などの事業から生ずる所得です。事業所得の金額は一年間(暦年)の「収入−必要経費」として計算します。

一年間の収入と必要経費を集計して、事業所得(収入−必要経費)を計算する書類を「損益計算書」といいます。損益計算書は確定申告書に添付しなければなりません。税務署は損益計算書の様式として、青色申告の場合は「青色申告決算書」、白色申告の場合は「収支内訳書」という用紙を用意しています。

多くの事業で一年間の収入と必要経費は膨大な件数になります。また、何をもって収入や必要経費にするかの判断もしなければなりません。さらに、これらの計算プロセスを「帳簿」として記録しておく必要があります。事業所得者の確定申告は一朝一夕に行えるものではないのです。常日頃から、事業に関する入出金を把握し、その中から収入と必要経費を抽出・集計、記録するという作業をしておかなければならないのです。

昨今では、会計ソフトで事業所得を計算して確定申告書までを作成することができますが、会計ソフトに闇雲に入力をすれば、あとは会計ソフトが「自動的に修正してくれる」というものではありません。入力すべきデータを選定し、その内容(日付、金額、入出金の相手先など)を正確に入力しなければ正しい結果は得られません。

◆事業所得は申告納税制を採用している

事業所得は納税者自らが所得と税額を計算してそれを申告するという、申告納税制を採用しています。個人事業者の場合、会社のような登記制度(法務局という役所で設立手続をしなければならない)がないことから、事業を始めても直ぐには税務署にその存在を把握されません。そんなことから、所得があり申告と納税が必要であるにもかかわらず、長期間申告をしない個人事業者が少なからずいます。しかし、税務署は様々な手段を使って申告漏れを発見しますので、いずれは発見されます。

◆事業所得は税務調査の対象になる

申告納税制では税務調査が必要となります。申告納税制では納税者の自主性を尊重していることから、納税者によっては不正な申告により納税を逃れようとする者、所得があるのに申告をしない者が現われます。それを税務調査という国家権力で正さなければならないのです。

◆帳簿の作成

事業所得の確定申告で大変なのは「記帳」、帳簿を作成しなければならないということです。帳簿は事業所得を算出するプロセスの記録です。税務調査の際には、帳簿を提示しなければなりません。「(事業所得の)この部分はどのようにして計算しましたか?」という調査官の質問に答えるために帳簿は作成するのです。

事業所得の収入

事業所得の収入は、いわゆる「売上」と呼ばれるもので、その年に「収入とすべき」金額を収入としなければなりません。収入とすべき金額には、収入の対価としてその年に現金を受け取った分だけではなく、入金はまだでも収入に含めなければならない分もあります。要するに、「収入とすべき権利の確定」している金額を収入としなければならないということです。

「入金もまだなのに課税の対象にするとは、わが国の税制はなっていない」と憤慨する人がいます。しかし、「信用取引(代金決済は後日)が一般的であること」、「経費についても支払いが済んでいなくても一定のものは収入から差し引けること」を考えると、少しはご納得いただけるのではないかと思います。

抵抗はあるかもしれませんが、この考えは事業を行っていく以上は受け入れるしかありません。いつまでも、拒絶していると税務署との衝突が永久に続きます。「今年入金がないのに売上に含めた分は、来年入金があっても売上にはならない」のですから、あまりムキにならないのが賢明ではないでしょうか。

また、収入に含めたけれども最終的に入金がなかった分については、値引きや貸倒れ(かしだおれ)として翌年以降の事業所得からの減額が認められます。

◆収入とすべき日と金額の具体例

収入とすべき日と金額の計算は業種や業態によって異なってきます。

○商品の販売
商品を引渡した日、一般には出荷した日が収入とすべき日になります。つまり、年度中に引渡した商品の代金合計がその年の収入となります。小売店の場合にはレジで精算した日となります(入金日と一致します)

○建設工事の請負
受注した物件が完成し引渡しをした日が収入とすべき日です。その年度中に完成し引渡した物件の受注代金合計が収入となります。

○サービスの提供
個々のサービスの提供が完了した日が収入とすべき日です。その年度中に提供が完了したサービスの代金合計が収入となります。

◆収入に関する基礎資料(税務調査の対象)

収入は税務調査における重点的調査項目です。収入に関する帳簿(総勘定元帳や売掛帳など)は当然として、個々の収入の内容を明らかにする次のような資料までもが調査の対象となります。

見積書控
注文書
請求書控
領収書控
預金通帳
レジの記録
出荷の記録

◆反面調査

反面調査とは、税務調査での調査手法のひとつで、調査対象納税者の取引先から関連データを入手するという方法です。収入に関しての帳簿や基礎資料が不正確、存在しない、あるいは納税者が提示しない場合にはこの反面調査が行われます。反面調査が行われると取引先との関係が悪化することもありますが、それを理由に反面調査を拒むことはできません。

事業所得の必要経費

必要経費とは、収入(売上)を得るための売上原価(仕入代金)と諸経費のことです。必要経費の「必要」とは「事業のために必要である」という意味で、売上に対応する商品の仕入代金は当然として、事業に関連しての支出である以上は必要経費とすることができます。

事業に必要な経費であるならば、「こんなに必要経費が多いと税務署に怪しまれる(認めてくれない)」と、考える必要はありません。例えば、あまり成果を生まなかった多額の広告宣伝費、事業拡大を見込んでやや広めの事務所や倉庫を借りた場合の賃料も、事業のための支出である以上は必要経費とすることができます。反対に、事業に無関連の支出はどんなに少額であっても必要経費に含めることはできません。

必要経費を計算するには、とにかく領収書をかき集めてください。ただし、事業と無関係なものは混ぜないでください。でも、その判断は容易ではありません。

◆必要経費の分類

領収書がそろったならば、次は分類(科目)です。「必要経費合計・・・・円」といった記載は認められません。領収書を分類して集計するか、会計ソフトに分類して入力するかしなければなりません。

税務署が配布している青色申告決算書や収支内訳書では、必要経費を多数の項目(科目)に分類しています。「租税公課」「荷造運賃」「水道光熱費」「旅費交通費」「通信費」「広告宣伝費」「接待交際費」・・・・と延々と続きます。税務署はその手引書で詳細かつ平易な解説をしていますが、必要経費の内容は事業者により異なり、無数に考えられますので相当悩むことがあります。大切なことは「分類よりも、必要経費となるかどうか(事業に必要かどうか)」です。まったく的外れな分類はともかくとして、必要以上に分類に過敏になることは賢明ではありません。

◆親族に支払う給与

「生計を一にしている(ふところが同じ)」親族に対して支払う給与は、原則として必要経費にはできません。

これは、親族への所得分散をすることによる所得税の負担減少を防止するためです。わが国の所得税はいわゆる累進税率を採用していることから、所得金額が上昇するにつれて税率も上昇します。これを避けるために所得分散は行われます。

しかし、生計を一にする親族への給与の支払いも経済的に合理性があるので(当然なので)、例えば、次のような一定の条件のもとに必要経費とすることを認めています。

○事業者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
○その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
○その年を通じて6月を超える期間その事業に専ら従事していること

青色申告と白色申告で親族に支払うことができる給与の額が異なります。また、青色申告の場合は事前に税務署への届けが必要です。

◆もっと必要経費を計上しておけばよかった・・・

必要経費になるかどうかの解釈や判断は人によって異なります。誰かから「これも必要経費になった!」【注】と聞けば損をしたように感じるのは当然です。大切なことは、必要経費に関して自らの信念や哲学を持ち、迷いを捨て去ることです。「必要」ということに関して、自身が納得できればそれでいいのではないでしょうか。

【注】後の税務調査でアウトになることもあります。税務調査でばれなかった、税務調査が行われなかったということもあります。