贈与税の概略(2/2)

贈与税の計算(申告と納税)

 

目次

 

 

4 贈与が行われても贈与税が課税されない財産

 

贈与があったからといって、そのすべての場合に贈与税が課税されるわけではありません。親が子に生活費や学資を渡すのは典型的な贈与ですが、そこにまで贈与税が課税されるわけではありません。

 

贈与税は、贈与により取得したすべての財産に課税されますが、財産の性質や社会常識、公益的配慮などから課税されない財産があります。

 

(1)法人から贈与を受けた財産

贈与税ではなく一時所得として所得税が課税されます。贈与税は相続税の補完税であり、相続は自然人(法律上は人を自然人=通常の意味における人、法人=会社などの二種類に区分けしています)についてのみ生じますので、法人からの贈与には贈与税を課税しません。

 

(2)扶養義務者相互間で、生活費や教育費に充てるために贈与が行われる財産のうち通常必要と認められる範囲内のもの

「生活費」とは、被扶養者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く)をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるものをいいます。「教育費」とは、被扶養者の教育上必要と認められる学資、教材費、文具などをいいます(義務教育の費用に限られません)。

なお、生活費、教育費とも必要な都度取得した部分には贈与税は課税されませんが、生活費や教育費として取得した財産を預貯金とした、株式を購入した場合などは贈与税が課税されます。

 

(3)公益事業を行う者が贈与を受けた財産で、公益事業の用に供することが確実なもの

 

(4)財務大臣が指定する特定公益信託から交付される一定の学術研究奨励金など

 

(5)心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権

 

(6)公職選挙法に基づく選挙において、候補者が選挙運動のために贈与を受けた金品などで、同法の規定により報告されたもの

 

(7)相続のあった年に被相続人から贈与された財産(相続財産に加算される)

相続のあった年に被相続人から贈与された財産については、相続税が課税されることから贈与税は課税されません(贈与税の額は一年が終了しないと確定しないこと、贈与税を課税しなくても相続税の課税の対象になることによります)。ただし、贈与を受けた人が相続により財産を取得しない場合には贈与税が課税されます。

 

(8)特別障害者が特別障害者扶養信託契約に基づいて受ける信託受益権(6000万円まで)

 

(9)社交上の香典や贈答品などで社会通念上相当と認められるもの

 

 

5 人によって課税される財産の範囲に違いがある

 

住所が国内か国外かによって課税される範囲が異なってくることは多くの税に共通することです。しかし、税負担を減らすためだけの見せかけの住所には厳しい規制がされています

 

(1)贈与により財産を取得した時に日本国内に住所のある人→居住無制限納税義務者

取得した財産の所在する場所に関わらず、すべての財産に課税されます。

 

(2)贈与により財産を取得した時に日本国内に住所のない人で、次のいずれかの要件に該当する人→非居住無制限納税義務者

●日本国籍を有し、贈与によって財産を取得した人または贈与をした人が、贈与前5年以内に日本国内に住所を有していた

●日本国籍は有しないが、贈与をした人が贈与時に日本国内に住所を有していた

取得した財産の所在する場所に関わらず、すべての財産に課税されます。

 

(3)贈与により財産を取得した時に日本国内に住所のない人(上記(2)に該当する場合を除く)→制限納税義務者

取得した財産のうち日本国内にあるものの合計額に課税されます。

 

 

6 贈与税の計算方法(相続時精算課税適用分は除く)

 

贈与税の計算は意外にシンプルです。もらった財産の評価額(こちらの計算は難しいです)に税率を掛けるだけです。

 

(1)課税価格(贈与税が課税される財産の合計額)の計算

贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の価額の合計額(課税価格)に対して課税されます(複数の人から贈与を受けている場合にはその金額を合計します)。なお、上記「4贈与が行われても贈与税が課税されない財産」はこの課税価格に算入されないことはいうまでもありません。

 

(2)贈与税の基礎控除

上記(1)課税価格からは110万円の基礎控除を差し引くことができます。つまり、1年間に贈与により取得した財産の価額の合計額が110万円以下である場合は、贈与税は課税されないということです。

 

(3)贈与税の税率

基礎控除を超えた額に応じて10%から50%の税率が適用されます。平成27年1月1日以後の贈与については最高税率が55%に引き上げられます(父母や祖父母などの直系尊属から20歳以上の者への贈与については軽減が図られます)。なお、贈与税の税率は、生前贈与による相続税の軽減を図ることを防ぐため相続税の税率よりも高率となっています。

 

(4)贈与税の配偶者控除

夫婦間の財産の贈与が行われ以下の条件にあてはまる場合には、基礎控除額110万円のほかに最高2000万円までの配偶者控除を受けることができます。

●贈与の時に婚姻期間が20年以上経過していること

●贈与された財産が自分で居住するための不動産か、居住用不動産を取得するための金銭であること

●贈与を受けた年の翌年の3月15日までに、贈与を受けた居住用不動産か、贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、受贈者が実際に居住して、その後も引き続いて居住する見込みであること

 

(5)直系尊属(父母や祖父母など)から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた者(20歳以上で、合計所得金額2000万円以下に限る)は、その資金で購入した家屋の態様に応じて、その資金の内500万円から1500万円は贈与税が非課税となります。住宅購入資金に関しての贈与税の非課税制度は、古くから幾度の改正を経て今日に至っています。住宅が生活に必要不可欠であること、住宅の購入による経済効果があることを重視する国策にほかなりません。今後も永続することでしょう。(下記9相続時精算課税制度でも住宅取得資金の贈与に関する非課税がありますが、通常の贈与とは異なる面がありますのでその点を留意して活用しなければなりません。)

 

 

7 贈与税が課税される財産の評価方法

 

相続税が課税される財産と同様の方法で評価します(当事務所ホームページ、「よくある質問」の「相続・贈与、土地建物等の譲渡」、「相続税の概略」をご覧ください)。

 

 

8 贈与税の申告と納税(相続時精算課税適用分は除く)

 

贈与税は暦年で計算して申告納税をします。

 

(1)申告

1年間を通して贈与を受けた財産の価額の合計が110万円を超える場合には、翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の申告をしなければなりません(贈与を受けた財産の価額が110万円以下の場合には申告する必要はありません)。なお、贈与税の申告書は住所地を所轄する税務署に提出します。

 

(2)納税

贈与税の申告書の納付期限までに行う必要がありますが、一定の条件のもとに「延納」が認められます。

 

 

9 相続時精算課税制度

 

「早く、おやじ(おふくろ)の財産が欲しい!(でも、今もらうと莫大な贈与税が・・・)」という方には「うってつけ」の制度です。生前贈与を受けた場合の贈与税が大幅に軽減されます。ただし、将来の相続のときに精算しなければなりませんよ!

 

(1)概要

高齢者の保有する資産を相続よりも早い時期に贈与によって次世代に移転させ、その資産の有効活用を通じての経済の活性化に資するために平成15年度の税制改正において創設された制度です(バブル崩壊後の「失われた10年」を取り返すための切札として期待されていました)。この制度においては贈与を相続の前倒しとして捉え、世代間の資産移転の阻害要因となっていた贈与税の税率(10%から50%)もフラットで低税率(一律20%)として、将来の相続時に相続税で精算する制度となっています。

贈与により財産を取得した人は、通常の暦年単位による贈与税の課税方式(暦年課税)に代えて、相続時精算課税の適用を受けることを選択できます。贈与時には相続時精算課税による贈与税を納付し、相続時には相続時精算課税を選択して取得した財産を相続税の課税価格に含めて相続税を計算しますが、相続時精算課税を選択することにより納付した贈与税は相続税額から控除できます(場合によっては贈与税が還付されることもあります)。

相続時精算課税制度は贈与者ごとに選択します(父からの贈与について相続時精算課税を適用し、母からの贈与については通常の贈与で申告することができます)。また、ひとたび相続時精算課税を選択した場合には、以後同じ者からの贈与については相続時精算課税を適用しなければなりません。(当然ですが、兄弟など全員が相続時精算課税を選択する必要はありません。)

 

(2)対象者の適用要件

●受贈者

 贈与者の推定相続人(将来相続人となるであろう人)である直系卑属のうち、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上である者(平成27年1月1日以後の贈与からは孫への贈与も可能となる)

●贈与者

 贈与した年の1月1日において65歳以上である者(平成27年1月1日以後の贈与からは60歳以上であれば可能となる)

 

(3)適用手続

相続時精算課税の適用を受けようとする受贈者は、贈与税の申告期限内(贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日まで)に「相続時精算課税選択届出書」を贈与者ごとに作成し、贈与税の申告書に一定の書類とともに添付して所轄の税務署に提出しなければなりません。この届出書を提出した場合には、届出た贈与者(特定贈与者)からの贈与については、この制度を適用した年分以降、すべてこの制度の適用となります(特定贈与者から最初の贈与があった年は当然として、以後、同一の特定贈与者から贈与のある年は申告が必要です)。なお、提出した届出書の撤回はできません。

 

(4)特別控除額

次のいずれか低い金額を特別控除額として、贈与された財産の額から差し引くことができます(何年かかけて贈与が行われたとしても、累計して2500万円までは贈与税が課税されないということです)。

●2500万円(前年以前この特別控除を適用した場合にはその金額を控除した金額)

●特定贈与者(その者からの贈与に相続時精算課税を適用することを選択した場合のその贈与者)ごとの贈与税の課税価格

 

(5)贈与税額の計算

相続時精算課税の対象となる財産の価額から(4)の特別控除額を差し引いた金額に20%の税率を乗じた金額となります。

 

(6)住宅取得資金の贈与への適用(父母の年齢を問わない)

20歳以上の一定の受贈者が自己の居住の用に供する一定の家屋を取得するための資金、または自己の居住の用に供する家屋の一定の増改築などのための資金(住宅取得等資金)を親からの贈与により取得した場合には、その親が65歳未満であっても相続時精算課税の適用を受けることができます。

 

《暦年課税と相続時精算課税(相続時精算課税でも暦年ごとに申告が必要)》

相続時精算課税に対して、従来からの贈与税の課税方法を暦年課税と呼びます。暦年課税は文字通り、暦年(1年)ごとにその年に贈与を受けた財産についての贈与税を課税する方法です。一方、相続時精算課税は、選択した者からの贈与について暦年にかかわりなく課税します。しかし、相続時精算課税においても年度ごとの申告は必要となります。確かに、特別控除額は暦年を超えて利用できますが、年度ごとの贈与財産の額と税額、贈与開始からの贈与財産額とそれに対する税額の累計を申告しなければなりません(贈与のなかった年度は申告する必要はありません)。

 

《相続時精算課税は節税の手段?》

鳴り物入りで創設された相続時精算課税ですが、これを「節税の手段」と考えるのは禁物です。例えば、相続時精算課税を適用して贈与を受けた資産が、「贈与時よりも相続時には値下がりしていた」、「相続時には失われていた」場合には、生前贈与したことが裏目に出ます。なぜならば、贈与を受けた資産は贈与時の時価によって相続財産に加算しなければならないからです。