試算表(財政状態とは)5/7

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪棚卸資産≫

 

1 棚卸資産とは

 

棚卸資産とは、企業が販売する商品、製品、製品を製造するための原材料や消耗品、製造途上にある仕掛品などが主な内容です。最近では経済のソフト化が進み、従来は棚卸資産の主流を占めてきた物理的な意味での棚卸資産(商品、製品、原材料など)以外の無形の棚卸資産(開発途上の無形サービスに関わる無形の費用)が棚卸資産の多くを占める企業も珍しくはありません。つまり、棚卸資産の範囲は広く、企業が販売する財貨や用役を生み出すためのあらゆる費用(支出)で、一定時点で未販売のものに関わる金額と考えなければなりません。

なお、棚卸資産は企業が本業として販売する資産であり、特定の資産がどの企業にとっても棚卸資産というわけではありません。たとえば、家具の卸売業においては販売用の机や椅子は棚卸資産ですが、それらを購入した企業にとっては棚卸資産ではありません(有形固定資産、あるいは購入時に費用処理します)。

 

(棚卸資産はいずれ費用となる資産です。そんなことから、棚卸資産を「費用性資産」とよぶことがあります。)

 

(1)棚卸資産の増加

 棚卸資産は購入した時点で増加します。つまり、企業が発注した商品や原材料を企業が受け取った時点で増加します。(詳細は、当事務所ホームページ、ノウハウ集の「試算表(業績の把握)の購買実績の把握」をご覧ください。)

 

(2)棚卸資産の減少

 棚卸資産は販売することにより減少します。また、原材料などの製品製造に投入される棚卸資産は、製造ラインに投入することにより原材料から他の棚卸資産へと形態を変えます。(詳細は、当事務所ホームページ、ノウハウ集の「試算表(業績の把握)の売上原価」をご覧ください。)

 

(3)棚卸資産に関する仕訳

(方法1)

【購入時】商品(資産勘定)/買掛金

【販売時】売上原価(費用勘定)/商品 販売商品相当についての仕訳

(方法2)

【購入時】仕入高(費用勘定)/買掛金

【販売時】仕訳なし

【決算時】商品/仕入高 期間末に未販売となっている商品についての仕訳

(方法1)は、取扱商品の品目、個数とも限られている業種でのみ採用可能な方法です。そこで、(方法2)が一般的に採用されています。

 

2 商品(材料、製品)台帳

 

棚卸資産の中で、商品、製品、原材料などの物理的に検数が可能なものについては商品台帳を作成することが通常です。商品台帳は個々の商品ごとに、商品が増減した都度、「数量」、「単価」を記入し、結果としてその残高(数量×単価)を把握します。

 商品台帳を作成することと、上記「1(3)の棚卸資産に関する仕訳」とは無関係です。(方法1)の場合は当然として、(方法2)の場合でも、期間末棚卸高を算出するためには商品台帳が必要です。

 

商品台帳の一般的様式は次のとおりです。

 

日付

摘要

購入数量

購入単価

払出数量

払出単価

残数量

単価

残高

12/1

A商会より購入

100

10

 

 

100

10.0

1,000

12/5

B物産より購入

240

12

 

 

340

11.4

3,880

12/10

C産業に販売

 

 

200

11.4

140

11.4

1,597

12/20

A商会より購入

200

9

 

 

340

9.9

3,397

 

(1)購入単価の決定

12月1日と12月5日では購入単価が異なります。しかし、12月5日現在では両購入日付の商品が混在していますので、何らかの仮定で単価を決定しなければなりません。そうでないと、以後の払出単価が決まらないからです。

この例では、12月5日の残高3,880を残数量340で除した平均単価11.4を用いています。

(2)払出単価

 販売商品の「原価」を意味します。この商品の販売単価が15であるとすれば、1個あたりの利益は3.6(15−11.4)となります。

(3)実地棚卸

 この商品の変動が12月21日以降12月末までないとすれば、月末の数量は340個となります。実際の購入や払出しのとおりに商品台帳が記入されているならば、倉庫などの現物保管場所の実際数量と一致します。

 

3 原価台帳

 

商品や原材料などのように外部から購入した棚卸資産については、その購入金額に基づき上記商品台帳の要領で金額を把握することができます。しかし、自社で製造した棚卸資産である製品については、自社でその金額を計算しなければなりません。なぜならば、製品の原価は外部から購入した個々の原材料だけではなく、個々の原材料の組み合わせ、加工費(人件費や外注費)、諸経費(設備費用や光熱費など)から構成されているからです。

そこで、製品原価を計算するために用いられるのが原価台帳です。原価台帳は、個々の製品ごとに一定期間の原価をその構成要素ごとに集計します。一定期間の製造原価が集計できたならば、その金額を製造数量で除することにより1個あたりの製品原価が算出できます。以後の把握は、上記の商品台帳と同様です。(詳細は、当事務所ホームページ、ノウハウ集の「試算表(業績の把握)の原価計算」をご覧ください。)

 

4 棚卸資産と試算表

 

個々の商品ごとに作成した商品(製品、原材料)台帳の一定期間末の金額を合計したものが、試算表の棚卸資産の金額と一致します。しかし前述のとおり、棚卸資産についてはその増減を棚卸資産の各勘定科目(商品、製品、現在料など)で把握するのではなく、購入あるいは製造開始時点に費用処理することが通常です(仕入高、原材料費など)。つまり、増加は費用勘定でとらえ、一定時点末の棚卸資産の金額を資産計上するとともに費用勘定から減額します。そこで、棚卸資産と試算表の関係を把握するには、試算表の複数の勘定科目を検討しなければなりません。

 

(1)仕入高勘定借方は一定期間の棚卸資産の購入総額を意味します(各商品台帳の購入欄の合計)

(2)棚卸資産勘定残高は一定時点に保有する棚卸資産総額を意味します(各商品台帳の残高欄の合計)

(3)一定期間の売上原価は、(1)−(2)で算出します(一定期間の初めに棚卸資産がある場合はそれを加算する)

 

 上記の関係を具体的な仕訳と試算表で表せば下記のとおりとなります。

 

【当月仕入総額】仕入高150,000/買掛金150,000

【月末商品棚卸高】商品60,000/仕入高60,000

【月初め商品棚卸高】仕入高50,000/商品50,000

 

貸借対照表

 勘定科目

前月繰越

当月借方

当月貸方

当月残高

棚卸資産

 

 

 

 

 商品

50,000

60,000

50,000

60,000

 

損益計算書

 勘定科目

前月繰越

当月借方

当月貸方

当月残高

売上原価

 

 

 

 

 期首商品棚卸高

 

 

 

 

 仕入高

500,000

150,000

 

 

 

 

50,000

60,000

640,000

 期末商品棚卸高

 

 

 

 

 

●期首(期末)商品棚卸高勘定は年度末のみに用います。期首商品棚卸高は売上原価のプラス要素、期末商品棚卸高はマイナス要素となります。

●当月の仕入高勘定(貸借の差額としての)は月初め商品棚卸高相当金額だけ実際の仕入れより過大になります(前月に貸方記入され減額されていますのでトータルでは影響ありません)

●当月の仕入高勘定(貸借の差額としての)は月末商品棚卸高相当金額だけ実際の仕入れより過小となります(翌月に借方記入され増額されますのでトータルでは影響ありません)

 

《年度末決算での売上原価》

 上記の試算表が最終月(決算が行われる月)のものとし、期首棚卸高(年度初めの商品)は30,000とした場合、以下の修正仕訳が必要となります。

●商品30,000/仕入高30,000(1ヶ月目の仕入高に加算しているので減額する)

●期首商品棚卸高30,000/商品30,000(期首商品棚卸高として売上原価に加算する)

●仕入高60,000/商品60,000(最終月の仕入高から減算しているので加算する)

●商品60,000/期末商品棚卸高60,000(期末商品棚卸高として売上原価から減額する)

 

(売上原価についての詳細は、当事務所ホームページ、ノウハウ集の「試算表(業績の把握)の売上原価」をご覧ください。)

 

 

≪固定資産≫

 

1 固定資産とは

 

固定資産とは、企業が複数事業年度にわたり使用する建物、機械、車両などの資産です。複数事業年度にわたり使用するがゆえに、その購入原価を購入事業年度に一括して費用処理するのではなく、減価償却という手続により複数事業年度に費用配分します。この費用配分は、発生主義会計ならではの考え方です。

 

2 固定資産の増減

 

 固定資産は資産勘定科目の中では増減が少ない勘定科目です。なぜならば、固定資産は複数事業年度にわたり使用されるものであり、一度購入したならば取替えをするまで長期間使用するからです。しかし、購入原価を費用処理する減価償却は毎期個々の資産ごとに行う必要があるために、個々の資産の購入時に正確な処理をしておかないと以後の減価償却計算を正確に行うことができません。

 

3 固定資産台帳

 

個々の固定資産を購入したならば、以下の事項を固定資産台帳に記録しておく必要があります。通常、固定資産台帳は、試算表の勘定科目ごと(建物、機械、工具器具備品など)に作成します。また、固定資産台帳を場所ごと(工場、営業所など)に作成しておくことにより固定資産の現物管理を有効に行うことができます。

 

●購入(使用開始)年月日

●固定資産名

●取得価額

●償却方法

●耐用年数

●残存価額

●償却率

●期首帳簿価額(取得価額−前期までの償却累計額)

●当期償却費

●期末帳簿価額(期首帳簿価額−当期償却額)

●償却累計額

 

《固定資産台帳作成の時期》

 ほとんどの企業は、固定資産台帳への購入時の記帳はその都度行っていますが、減価償却費の計算自体は一事業年度が終了した年度決算の際に行っています。月次の試算表作成においては、年間減価償却費の見込み額の12分の1相当額の金額を計上することが通常です。

 

《平成19年度税制改正で償却可能限度額および残存価額という考えがなくなりました。》

平成19年4月1日以降取得する減価償却資産から、償却可能限度額および残存価額という考えがなくなり、取得価額の全額を償却することができるようになりました。(ただし、備忘価額として1円は残しておかなければなりません。)国際的にはこの方法が一般的で、わが国もようやく国際標準を採用したということになります。なお、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産が償却可能限度額に達した場合にも、一定の方法で全額を償却することができます。

 

4 固定資産と試算表

 

固定資産台帳の各資産の合計金額が、試算表と次のような関係にあります。

 

●各固定資産の固定資産台帳の期首帳簿価額が、期首試算表の各固定資産勘定科目の残高金額に一致します

●各固定資産の固定資産台帳の期末帳簿価額が、期末試算表の各固定資産勘定科目の残高金額に一致します

●全ての固定資産台帳の当期償却費が、試算表の減価償却費に一致します

 

《リース資産》

 試算表に計上される固定資産は、企業に所有権のあるものに限られます。リース資産はその所有権がリース会社にあるために、試算表にはその取得価額が計上されません。リース料を支払った金額が費用として試算表に計上されることになります。

 

《固定資産の除却》

 固定資産を除却した場合(売却による減少含む)、固定資産台帳の金額(取得価額−償却累計額=帳簿価額)相当を減額する仕訳を起こす必要があります。

 

 

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