株式公開(資金調達の多様化)

 

1.   株式公開ブーム

 

「ヤフー」、「ソフトバンク」、「光通信」・・・。今では、「そう思えば、三年ほど昔そんなことがあったな」と言われるようになりました。いわゆるネットバブルに沸き、「成長性」、「ビジネスモデル」、「ベンチャー」、「ニューエコノミー」と言う言葉がもてはやされました。しかし、ネットバブルも束の間の出来事で、崩壊後は「自己責任」の名のもと多くの投資家が泣き寝入りする羽目となりました。

しかし、これは株式市場の一面を象徴する出来事にしかすぎません。「東証マザーズ」、「ナスダックジャパン」のベンチャー向け市場の創設は、ネットバブルの大いに意義のある遺産です。

 

2.   株式市場の意味するもの

 

わが国企業の資金調達手段の主流は、金融機関からの融資です。バブル崩壊以降、再三にわたり批判を浴びましたが金融機関の融資審査基準は、いわゆる「担保主義」です。融資審査に当たり、融資額相当の担保を保有していることが大前提です。そこには「融資先が倒産した場合」という思想が根底にあります。また、金融機関は所轄官庁の下、画一的な運営を余儀なくされています。にもかかわらず、わが国の企業は資金調達を事実上金融機関からの融資に頼るほかはなく、企業経営者は金融機関の顔色を常にうかがい、目先の業績悪化を極度に恐れる経営しかできません。

株式市場はどうでしょうか。そこには、「企業が倒産した場合」との後ろ向きな考えはありません。株式市場は「企業の継続と発展」が前提で、そこに参加してくる投資家も様々な価値観を持っています。その目的は、「目先のキャピタルゲイン」、「長期安定的な配当」のみならず、「私は、この会社のファンだ。何があっても株は売却しません。がんばってください。」と考える投資家も数多くいるのです。

企業活動に資金は必要不可欠です。特に、新たな事業にはより多くの資金が必要ですがリスクが伴います。残念ながら、これに金融機関は応えることはできません。資本主義経済においては、様々な価値観を持つ投資家と企業を結びつける株式市場の存在が必要不可欠なのです。

この株式市場の機能を否定する必要がどこにあるのでしょうか。いわば、ネットバブルは前座に過ぎなかったのです。今後もわが国の株式市場は「怪奇現象」を引き起こすでしょうが、間違いなく資金調達の手段としての地位を高めていくことでしょう。

 

3.   間接金融と直接金融

 

企業の資本(資金)は、「自己資本」と「他人資本」に分類されます。

「自己資本」とは、企業が株主から調達した資金です。株主は企業の最高意思決定者で、いわゆるオーナーです。しかし、あくまでも会社の一機関であり、自らの投資判断でそのリスクを背負います。

一方、「他人資本」とは、企業の外部債権者から調達してきた資金で、やがて返済しなければなりません。あくまでも、債権者は部外者であるため株主とは異なる扱いが求められます。

「自己資本の充実」と言う言葉をよく聞きます。これは、従来の金融機関主導の間接金融ではなく、株主から返済不要の自己資本を調達する直接金融で経営して行くということです。ここでの株主とは、いわゆる相互持合による株主ではありません。広く一般からの株主です。広く一般株主から出資を募り運営していく、直接金融は資本主義経済では企業の当然の姿なのです。

株式市場が直接金融の重大な役目を果たすことは言うまでもありません。そこでは、株主の自由な参加と退出が保証されているからです。

 

4.   公開企業の要件

 

80年代後半のバブル期、いわゆる老舗大物企業の株式公開が相次ぎました。その際、「プライベートカンパニーからの脱皮」という経営者のコメントがよく聞かれました。いわゆる非公開企業は、特定の同族関係者が株式のほとんどを保有しており、株式公開はその株式を公に放出し「パブリックカンパニー」になることを意味していました。

確かに株式公開を果たすには、法律で定められた画一的な基準が存在します。決算内容を広く一般に公開しなければなりませんし、同族外株主も数多く参加してくることになります。さらには、管理体制を整え組織的な運営が要求されます。そんなことから、公開企業は果たすべき義務が数多くある、法律で監視されている企業との考えがありました。

株式公開は決して義務ではありません。企業が飛躍するための手段なのです。多くの投資家を募るには、企業の現状や将来展望を示すのは当然です。法律は、その当然なことを保証しているに過ぎないのです。

企業は「公器である」と言われます。これは、企業が役所と同じような公共性を有するということではありません。広く一般株主から出資を募り、その資金をもとに相応の対価を得て世の中に良い商品やサービスを提供し、さらにその余剰を配当、税金として分配するという意味においての公共性なのです。

 

5.   中小零細企業飛躍のチャンス

 

株式公開が身近になったと言っても、まだまだ零細企業には夢のような話しです。しかし、株式市場の発展は従来の企業系列や、メインバンク制度に多大な影響をもたらします。株式市場から特定の企業に集められた潤沢な資金の投資対象は、人、物、さらには他の企業へと向かいます。たとえ、零細な企業でも素晴らしいな技術やノウハウを有している企業は投資対象となります。

これからは、担保不要で潤沢な資金を集めることも可能となるのです。目先の資金繰りに四苦八苦することなく、腰を据えた経営ができるようになるのです。

 

6.   株式公開への備え

 

今後、株式市場の多様化が益々進むと考えられます。より小規模企業、地域限定などの株式市場の創設も十分ありえます。市場は多様化しようとも、公開企業に求められる共通の要件は次の通りです。

@会社制度に対する理解

わが国の中小零細企業のほとんどが、個人企業に「会社の衣」を着せているにすぎません。「株主」、「役員」、「資本金」といったことを意識している、あるいは理解している企業はほとんどありません。直接金融時代は、これらに対する正確な理解が必要不可欠となります。「会社は誰のもの」、「経営責任」ということが重要な要素となるのです。

A経理内容の明瞭化

直接金融は、企業内容に対し投資されます。あらゆる企業の評価は金銭的価値でなされ、そのスタートとなるのは現在の正確かつ明瞭な経理内容の公表です。「税理士任せ」、「税務署にだけ」、「銀行から融資を受ける時だけ」ではどうにもなりません。

B計画性のある経営

先が完全に見える企業などありません。しかし、計画性は必要です。株式市場では、「先を考えない経営」や「結果のみの経営」は許されないのです。

C事業内容の適切なPR

どんな商品やサービスを提供しているかが不明な企業に、投資家は振り向いてくれません。事業内容をわかりやすく説明する姿勢を忘れてはなりません。

中小零細企業が、以上を実行することはそう簡単ではありません。また、実行しなくとも当面は何の支障もないかもしれません。しかし、中小零細企業といえども金融機関、株主、保証人、従業員などの利害関係者は数多く存在します。これら利害関係者には@〜Cの姿勢で臨む必要があります。

@〜Cは企業共通の要件と考えなければなりません。

 

 

築山公認会計士事務所

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