赤字企業と消費税

赤字企業の多くは消費税を納税しなければなりません。

 

 

【ご注意】

下記の説明は、課税事業者が課税対象となる事業のみを行っており、かつ、輸出取引や海外支店の設置などの国際的取引がない場合を前提としています。

 

 

  赤字とは?

 

赤字とは、収益から費用を差し引いた金額、つまり、利益がマイナスの状態をいいます。(試算表において利益がマイナスの場合には赤字で記入することから赤字と呼ぶようになったそうです。)会社と個人事業者に分けて、もう少し詳しく説明させていただきます。

 

(1)会社の場合

「利益=収益−費用(費用に経営者の取り分=役員報酬を含む)」

昨今の不景気から収益性(収益−費用の幅)が低下し、形式上役員報酬を費用として計上しておきながら、それが未払いになっている(そうでないと資金繰りがもたない)会社が数多くあります。このような会社のほとんどは、いわゆる赤字(損失を計上)となっています。

(2)個人事業者の場合

「利益=収益−費用(費用に経営者の取り分を含まない)」

収益性の低下は会社同様ですが、この算式からすれば、そうそうでは赤字にはならないことをご理解いただけると思います。

 

  赤字企業と消費税

 

(1)会社の場合

赤字企業でも消費税を納税しなければならないことが通常です。

納税する消費税は、「受け取った消費税−支払った消費税」となります。受け取った消費税の大部分は収益から計算できます。しかし、支払った消費税は費用の一部からの計算ということになります(役員報酬、従業員給与、減価償却費は消費税の対象外です)。

(計算例)

●損益計算書(税込処理)

売上高8000

仕入高−4000

人件費−2000(役員報酬を含む)→消費税対象外

減価償却費−1000→消費税対象外

諸経費−3000(すべて仕入税額控除できると仮定)

利益−2000

●消費税の納税額(簡易課税は選択していない)

受け取った消費税8000×5/105=380(この計算においては端数を無視します)

支払った消費税7000(仕入高+諸経費)×5/105=333(この計算においては端数を無視します)

納税する消費税380−333=47

 

(2)個人事業者の場合

赤字の場合には課税されないのが通常でしょう(専従者や従業員の給与がなく、設備もない場合)。しかし、上記1「赤字とは?」のとおり個人事業者の赤字は、そうそうでありえません(赤字の場合はなんらかの計算ミス(しかも致命的な)をしているものと思います)。

(計算例)

●損益計算書(税込処理)

売上高6000

仕入高−5000

人件費0(専従者、従業員はいないとする)→消費税対象外

減価償却費−1000→消費税対象外

諸経費−2000(すべて仕入税額控除できると仮定)

利益−2000

●消費税の納税額(簡易課税は選択していない)

受け取った消費税6000×5/105=285(この計算においては端数を無視します)

支払った消費税7000(仕入高+諸経費)×5/105=333この計算においては端数を無視します)

納税する消費税285−333=−48(消費税が還付されます)

 

  黒字でも消費税を納税しなくてもよい場合

 

多額の設備投資をした場合には、黒字でも消費税を納税する必要がない場合があります。設備(建物、機械など)購入の際には多額の消費税を支払います。しかし、利益の計算においては、これらの購入費用は全額が購入年度の費用となるのではなく、減価償却という手続により複数の事業年度(課税期間)の費用となります。

「あれだけの設備投資をしたのに法人税(所得税)が課税されるとは(黒字とは)」。よく聞く「愚痴」です。しかし、消費税においては設備投資した事業年度(課税期間)において、支払った消費税として考慮してもらえるのです。

 

(計算例)

●損益計算書(税込処理)

売上高5000

仕入高−2000

人件費−1000(役員報酬を含む)→消費税対象外

減価償却費−500(注)→消費税対象外

諸経費−1000(すべて仕入税額控除できると仮定)

利益500

(注)この期に3000の設備を購入し、その分の減価償却を500したとします。また、この期に購入する以前には設備はなかったとします。

●消費税の納税額(簡易課税は選択していない)

受け取った消費税5000×5/105=238(この計算においては端数を無視します)

支払った消費税6000(仕入高+諸経費+購入した設備)×5/105=285(この計算においては端数を無視します)

納税する消費税238−285=−47(消費税が還付されます)

減価償却費は仕入税額控除の対象ではありません。なぜならば、購入額3000について仕入税額控除をしているので、減価償却費分を仕入税額控除すると二重に控除することになるからです。

 

  簡易課税を選択している場合

 

赤字でも、ほとんどの場合は消費税を納税しなければなりません。なぜならば、簡易課税の場合には「支払った消費税」のみなし計算が行われ、これが受け取った消費税よりも多くなることはありえないからです。ただし、販売代金の貸し倒れ(当年度だけでなく前年度以前の分の貸倒れ)が多い場合には、納税が必要ない、場合によっては還付となることがあります。)

 

 

≪消費税課税事業者届出書≫

 

課税事業者に該当することになった場合には速やかに提出しなければなりません。

 

(1)適用開始課税期間

消費税を計算する期間のことを「課税期間」といいます。会社の場合は事業年度、個人事業者の場合には暦年です。

(2)上記期間の基準期間

会社の場合には前々事業年度、個人事業者の場合には2年前です。

(3)総売上高

ここからが難しくなります。おおむね損益計算書の「売上高」です。しかし、損益計算書の売上高以外にも多額に売上高がある場合もありますのでご注意ください。

(4)課税売上高

ほとんどの場合は上記(3)と等しくなります。住宅貸付や医療を営んでいる場合には、(3)よりも著しく少なくなる(ゼロになる)場合があります。

 

この消費税課税事業者届出書は、基準期間における(4)課税売上高が1000万円を超える場合には速やかに提出しなければなりません。要するにほとんどの場合、年間売上高が1000万円を超えた2年後には消費税の課税事業者となるということです。

 

ややこしいです。そんなことから税務署は、損益計算書の「年間売上高」が1000万円を超えた会社と個人事業者には消費税課税事業者届出書を郵送し提出を促しています。しかし、「課税売上高」が1000万円を超えていなければ課税事業者にはなりません。その場合には税務署に相談してください。

 

最近では年間売上高1000万円を超すことが難しくなってきました。一昔前まではパン屋、酒屋、魚屋などの零細な個人商店でも軽く1000万円を超えていました。しかし、零細な個人商店は2004年に従来の3000万円という基準が1000万円に引き下げられたことによってことごとく廃業しました。

1箇所からしか収入がないフリーのプログラマーやデザイナー、アフィリエイターではとても1000万円を超しません。今後、消費税の税率アップと同時に1000万円という基準の引き下げも検討されると思います。また、廃業が増えることでしょう・・・

 

【特定期間】→重要

特定期間とは、法人の場合にはその課税期間の前事業年度の上半期(最初の6か月間)、個人の場合には前年の上半期(1月から6月)のことをいいます。法人の場合には平成25年1月1日以後開始する事業年度から、個人の場合には平成25年度から、この特定期間の課税売上高が1000万円を超える場合には、基準期間の課税売上高が1000万円を超えていなくても課税事業者になってしまいます。ご注意ください!

 

 

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