消費税と帳簿

課税事業者になったので・・・。簡易課税が適用できなくなったので・・・。

  

 

1 消費税の帳簿!?

 

わが国の消費税法は、帳簿方式という帳簿から消費税の納税額を計算する方法を採用しています。一方、EU諸国においては、インボイス方式という法定のインボイス(伝票)から計算する方法を採用しています(おそらく個々のインボイスを分類・集計するのでしょう)。わが国が帳簿方式を採用した理由は様々でしょうが(課税事業者の事務負担の軽減が主な理由だそうです)、帳簿方式である以上は消費税の納税額を計算するためには帳簿が必要なのです。

「課税事業者になったので・・・」「簡易課税が適用できなくなったので・・・」ということから、帳簿についてお悩みの方が多いと思います。しかし、従来から記帳しており、法人税(会社)や所得税(個人事業者)の税務調査で重大な指摘を受けてこなかったならば、恐れることはありません。

 

法人税(会社)、所得税(個人事業者)は所得金額を基準に課税されます。所得金額とは、一定の成果からそれを得るために要した犠牲を差し引いた金額で、簿記つまり損益計算(収益−費用)でいうところの利益金額におおむね一致します。

課税事業者が納税する消費税は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた金額となります。受け取った消費税の多くは収益から、支払った消費税の多くは費用から導くことができます。つまり、消費税の納税額は、今までどおりの帳簿にいくつかの加工と機能の付加をすることにより導き出せます。なお、「価格交渉と消費税(購買編)」の「3 本当にあった、恐ろしい話」のように、仕入税額控除が一切認められなかったケースがあるのも事実ですが、これらは何か特別な事情があったのだと思われます(取引の不透明性?調査への著しい非協力?)。 

 

2 受け取った消費税の対象となる取引(勘定科目)の分類と集計

 

課税期間に受け取った消費税の「総額」の計算は、課税期間に消費税を受け取った(受け取るべきであった、あるいは消費税の対象となった)販売代金などの税込金額の合計に5/105を乗じて計算します。(詳細は、「消費税の試算」をご覧ください。)

「損益計算書の売上高(税抜経理している場合には売上高+仮受消費税)を5/105すればよい!!」。お気付きの方も多いと思います。そのとおりです。しかし、そんな単純なケースばかりではありません。

 

(1)売上高に消費税が課税されない金額(非課税など)が含まれている場合

売上高を区分しておく必要があります(勘定科目の新設や分割)。

 

(2)売上高以外に受け取った消費税の対象となる取引がある場合

気をつけておくしかありません。多くの場合は、雑収入や特別利益にこれらが含まれているでしょうが、費用のマイナスとなっていることもありますので注意が必要です。

 

(3)収益が純額表示(?)されている場合

「純額表示」とは次のように収益から費用を差し引いて計上することをいいます。「所有する建物(帳簿金額100万円)を120万円で売った」場合の仕訳を考えてみます。

(借方)現金120(貸方)建物100+建物売却益20

消費税の課税の対象は120万円です(建物の売買取引は120万円でされています)。しかし、損益計算書の収益としては20万円しか表示されません。

(参考)総額表示の場合

(借方)現金120(貸方)建物売却収入120

(借方)建物売却原価100(貸方)建物100

 

(4)事業区分ができていない場合(簡易課税の場合)

簡易課税は本当に簡単か?」のとおり、簡易課税においては事業区分をしておく必要があります。事業区分ができていない場合には、事業区分についてのみなし計算がされ不利な扱いとなることがあります。

 

3 支払った消費税の対象となる取引(勘定科目)の分類と集計(簡易課税の場合は不要)

 

(1)勘定科目から直ちに集計できる場合

要領は、上記2の「受け取った消費税の対象となる取引(勘定科目)の分類と集計」と同じです(勘定科目の新設や分割が必要となります)。しかし、集計の対象となる勘定科目が多数あります。着目しなければならない主な勘定科目と仕入税額控除の可否は次のとおりです。(費用などは国内取引であること、継続して課税事業者であることを前提とします。)

【損益計算書】

●商品などの期首棚卸高(仕入税額控除できない(前課税期間においてすでに仕入高として仕入税額控除している))

●商品などの仕入高(仕入税額控除できる)

●商品などの期末棚卸高(仕入税額控除できない(すでに仕入高として仕入税額控除している))

●役員報酬・従業員給与(仕入税額控除できない)

●通勤手当(通勤に必要な部分は仕入税額控除できる)

●法定福利費(仕入税額控除できない)

●福利厚生費(金銭による慶弔費など一部のものを除き仕入税額控除できる)

●生命・損害保険料(仕入税額控除できない)

●外注加工費(仕入税額控除できる)

●荷造費・運搬費(仕入税額控除できる)

●倉庫料(仕入税額控除できる)

●旅費交通費(仕入税額控除できる)

●図書費(仕入税額控除できる)

●消耗品費(仕入税額控除できる)

●通信費(仕入税額控除できる)

●広告宣伝費(仕入税額控除できる)

●交際費(商品券、祝い金・見舞金などを除き仕入税額控除できる)

●家賃(住宅の家賃を除き仕入税額控除できる)

●リース料(仕入税額控除できる)

●修繕費(仕入税額控除できる)

●租税公課(仕入税額控除できない)

●水道光熱費(仕入税額控除できる)

●会費(一般に通常会費は仕入税額控除できない)

●減価償却費(仕入税額控除できない(減価償却資産の購入時に仕入税額控除できる))

●寄附金(仕入税額控除できない)

●貸倒損失(仕入税額控除できる(申告書記入は仕入税額控除とは区分する))

●引当金の繰入(仕入税額控除できない)

●支払利息・割引料(仕入税額控除できない)

【貸借対照表】

●棚卸資産(購入時に仕入高として仕入税額控除できる)

●前払費用(仕入税額控除できない)

●貸付金(仕入税額控除できない)

●固定資産(土地などを除き購入時に仕入税額控除できる)

●出資金(仕入税額控除できない)

●ゴルフクラブ会員権(仕入税額控除できる)

 

(2)勘定科目から直ちに集計できない場合

(イ)「・・損」であるのに消費税を受け取っている

「所有する建物(帳簿金額100万円)を80万円で売った」場合の仕訳を考えてみます。

(借方)現金80(貸方)建物100+建物売却損 20

実際に損をしていますが(損益計算書では消費税を支払っているように感じられますが)、80万円について消費税を受け取っています。

(ロ)「・・損」であるのに消費税を支払っていない

「建物(帳簿金額100万円)を除却した」場合の仕訳を考えてみます。

(借方)建物除却損100(貸方)建物100

建物についての消費税は、建物を購入したときに支払っていますので、除却したときには消費税の処理はありません。

  

4 「消費税を受け取った」「消費税を支払った」とされるタイミング

 

いわゆる発生主義(入出金にかかわらず費用や収益を計上する)によります。

その課税期間に代金が未入金の売上であっても消費税は受け取ったとされます(割賦販売、長期大規模工事については特例があります)が、反対にその課税期間に代金が未払いの仕入や経費であっても消費税は支払っているとされます。

売上代金の前受け相当額は消費税を受け取っていないとされ、短期の前払費用や減価償却資産の消費税については、代金支払時に消費税を支払ったとされます。

 

 5 税抜か、税込か

 

税込に限ると思います。処理が簡単なだけでなく現実的だからです。消費税が間接税であることからすれば、税抜が理論的かもしれません。しかし、取引上、消費税が「間接税らしく」扱われているのは、主に大企業同士が当事者となる取引に限られています(大企業同士では消費税を度外視して価格交渉が行われる)。多くの企業にとって、消費税は直接税的な性格の税です。帳簿から分類集計した収益や費用(いずれも税込)などから、「事後的に」納税する消費税の額を計算しているのが実情ですから。

 

  消費税の税務調査

 

上記の説明から、消費税の税務調査が、帳簿を基本に行われることをご理解いただけたると思います。

 

●受け取った消費税が帳簿から導かれているか?

●受け取った消費税に漏れはないか(課税、非課税などの区分は正確か)?

●(簡易課税の場合に)事業ごとの売上高は正確に区分されているか?

●支払った消費税が帳簿から導かれているか?

●支払った消費税に重複や対象外の混入はないか?

●支払った消費税の内訳は何か?

 

消費税の税務調査の詳細につきましては、「消費税の税務調査」をご覧ください。

 

7 消費税の申告書の添付書類?

 

法人税や所得税の申告書には数多くの添付書類が必要ですが、消費税の申告書にはこれといった添付書類は必要ありません。添付書類とは、税務署があらかじめ用意している申告書の用紙以外に提出が必要な書類のことで、法人税の場合には決算書など、所得税の場合には源泉徴収票や生命保険料の控除証明書などが添付書類として必要になります。消費税の申告書は下記(1)(2)を提出するだけで、添付書類は一切不要です。

 

なぜ、消費税の申告書には添付書類は必要ないのでしょうか?(税務署は、どのようにして申告された消費税額の妥当性を検討するのでしょうか?)それは、法人税や所得税の申告書とその添付書類がそのまま使えるからだと思います。ほとんどの場合、消費税の申告書を提出する納税者は法人税あるいは所得税の申告書も提出します。要するに、会社(法人税が課税される)の場合には決算書などから、個人事業者(所得税が課税される)の場合には青色申告決算書などから消費税額の妥当性が判明するからです。ただし、最終的には納税者の元に保管されている帳簿や領収書などを調べなければ判らないことも数多くあります。

 

(1)簡易課税を選択していない場合

消費税及び地方消費税確定申告書(一般用)

付表2 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表

仕入控除税額に関する明細書(還付申告をする場合のみ)

 

(2)簡易課税を選択している場合

消費税及び地方消費税確定申告書(簡易課税用)

付表5 控除対象仕入税額の計算表

 

8 消費税は費用?(ならば、税込経理が有利?)

 

この件を理解するに当たっては、前提として次のことを理解しておく必要があります。

 

(A)事業者は販売の際に消費税を受け取ります(預かります)。 

(B)事業者は仕入などの際に消費税を支払います。

(C)事業者が税務署に納税する消費税は(A)と(B)の差額です。

 

経理処理(仕訳と記帳)としては、各取引(販売や仕入など)を本体価格と消費税を別個に行う「税抜経理(税抜処理)」、本体価格と消費税を合計して行う「税込経理(税込処理)」の二つがあります。

 

(1)税抜経理の特徴 

取引の都度、(A)を仮受消費税という負債勘定、(B)を仮払消費税という資産勘定に計上し、納税の際は両者を相殺しその差額を消滅させます。納税の際の仕訳は次のとおりです(納付すべき税額がある、つまり仮受消費税>仮払消費税であるとします)。 

≪借方≫仮受消費税≪貸方≫仮払消費税+預金あるいは現金

このように税抜経理の場合には収入(売上など)と必要経費(仕入代金、家賃など)には一切影響しませんので、消費税は利益の計算に一切無関係ということになります。ただし、簡易課税を選択している場合にはこのようにはなりません。仮受消費税と仮払消費税の差額と納税額(申告書上の計算)は一致しないこと通常で、この差額を収入あるいは必要経費として処理します。なお、簡易課税でなくても仮受消費税と仮払消費税の差額と納税額(申告書上の計算)が若干は異なります。 

 

(2)税込経理の特徴

日常の取引の仕訳と記帳の際は消費税を一切認識しません。つまり、請求書や領収書の記載内容がどうであれ(本体と消費税が区分されていても)、本体価格+消費税で仕訳と記帳をするということです。

税務署に消費税を納付した際には次の仕訳をします。

≪借方≫租税公課(費用になる)≪貸方≫預金あるいは現金

 

★税込経理のほうが有利では(費用が増える)?

「個々の費用の金額に消費税を上乗せできる(本体価格+消費税)」

「税務署に納付した消費税が費用になる」

しかし、税込経理も税抜経理同様、結果的には収入と費用には影響しません。収入と費用に含めた消費税と税務署に納付する消費税は次のような関係にあります。

「収入に含めた消費税=費用に含めた消費税+納付する消費税(費用)」

要するに、消費税の経理処理に関しては収入=費用ということです。なお、消費税の納付は翌期となることから事業年度末では未払いですが、この分もその事業年度の費用にできます。

 

★消費税の免税事業者は税込経理しかできません!

事業を開始した年とその翌年は消費税の免税事業者であるのが通常ですので(課税事業者の選択をすることもできます)、税込経理しかできないということです。ご注意ください!

 

 

消費税Q&A目次