(内容)2013年4月30日現在

中小零細企業が内部留保を増やすには

 

大企業には多額の内部留保(社内留保ともいう)があり、2008年秋のリーマンショック以降の不況下にあっても目先の業績はともかくとして、当面の存続には一切の影響がないところが数多くあります。このようなことを聞いて「わが社も内部留保を増やそう!」と考える中小零細企業があります。

 

■内部留保とは?

 

平たくいえば「金銭的な余裕」のことで、使う予定のない銀行預金、売却予定のない有価証券(株や公社債など)、遊休不動産などをいいます。内部留保を築くには利益を計上しなければなりません。利益とは「収益−費用」のことで、内部留保は「黒字経営」の積み重ねによって築かれるのです。

 

■内部留保は法人税を支払った結果です

 

中小零細企業の経営者はこのことを忘れがちで、「経費削減=内部留保の増加」と考えてしまいます。法人税率は約40%ですので、100万円の利益を出しても内部留保は法人税40万円を差し引いた60万円になるのです。

 

■役員報酬(社長の給与)を十分に取っていますか?

 

役員報酬を押さえてまで内部留保を増やすのは賢明でない場合がほとんどです。【注】

 

年額で840万円(月額70万円)であった役員報酬を、年額600万円(月額50万円)に減らしたとします。これで、会社の利益は240万円(840−600)増え、法人税は「96万円」(240万円×40%)増えます。要するに240万円(役員報酬減額による利益の増加)−96万円(法人税の増加)=144万円の内部留保が増えます。

 

一方、役員報酬に対する税率が25%(所得税と住民税)【注】であるとすれば、社長個人が負担する税金は「60万円」(240万円×25%)減ります。社長の手取りの減少は240万円(減少した役員報酬の総額)−60万円(減少した税金)=180万円です。

 

役員報酬を減らして内部留保を増やしても、「会社と社長個人をトータル」しての税負担は36万円(96−60)増えます。これは、会社の内部留保の増加分144万円と。社長の手取りの減少180万円の差額にほかなりません。

 

【注】中小零細企業の役員報酬は1000万円以下であることが通常です。その場合の税率は社長の扶養親族の状況などにもより異なりますが、いずれにせよ法人税率よりは低くなります。

 

★会社と社長個人の留保(蓄積)をトータルで考える(大企業との違い) 

これは「公私混同」であるとか「どんぶり勘定」という意味ではありません。誤解しないでください。中小零細企業の場合には会社の資金が不足する場合、社長の個人資金を会社に投じればよいのです。ですから、留保(蓄積)も会社と社長個人をトータルして考えることになります。そのためには、税負担も会社と社長個人をトータルで考えて最小になるように意思決定をしなければなりません。

 

 

「純資産≧資本金」(それには法人税の納税が必要)

 

「純資産≧資本金」である、つまり創業時に出資した(あるいは追加で増資した)資本金が減っていないということが大切であるのはいうまでもありません。純資産とは貸借対照表で「資産−負債」として計算される会社の「正味の財産」です。

 

黒字であれば「純資産≧資本金」の状態は保たれます。黒字とは事業年度を通して「収益−費用≧0(ゼロ)」のことです(黒字とは損をしていないこととします)。これは「年度末の純資産≧年度初めの純資産」ということでもあります。

 

「収益=費用」(ここでは費用に法人税を含めていないとします)、つまり「利益ゼロ」であれば純資産は減らないと考えがちですが、実はそうではありません。「利益ゼロ」でも法人税を納税しなければならない場合があるからです。

 

■損金不算入の費用(交際費など)

 

費用となるものであっても、法人税の計算にあたってはこれを費用から除かなければならない場合があります。いわゆる「損金不算入」です。

 

「収益3000−費用3000=利益ゼロ」で費用に損金不算入の交際費が100含まれている場合には、法人税の課税の対象は「収益3000−費用3000+損金不算入の交際費100=100」となります。法人税率を40%すれば法人税額は100×40%=40です。

 

この法人税額は計算の対象となった事業年度に計上します(未払金として計上します)。そして、法人税も費用として差し引いた後の利益の計算は次のようになります。

 

収益3000−費用3000−法人税という費用40=利益マイナス40

 

■税金(法人税など)の経理処理

 

上記の利益がマイナス40という状態を解消するために頭をひねり費用(交際費以外で損金算入されるもの)を40減らすことができ、利益がゼロになったとします。

 

収益3000−費用2960−法人税という費用40=利益ゼロ

 

こうなれば今度は法人税が増えます。法人税は損金不算入だからです。

 

法人税の課税の対象は、利益ゼロ+損金不算入の費用140(交際費100+法人税40)=140になり、法人税額は140×40%=56に増えます。

 

収益3000−費用2960−法人税という費用56=利益マイナス16

 

どうすれば利益が出るんだ!?

 

★月次決算の段階で法人税を考慮しておく

以上のような会話は、申告期限が間近に迫ったときに、経営者と会計事務所(税理士)でよくある会話です。経営者にしてみれば「利益ゼロ=法人税は課税されない」かもしれませんが、実はそうではないのです。

損益計算書の利益と法人税の関係は大変難解です。決算申告の時期になって「予期せぬ納税」や「予想外の最終的利益」にならないようにするには、年間の利益予測をして、その利益を前提とした法人税を試算し、月次決算の段階で費用として計上(年額の1/12)しておくことです。

 

★交際費をゼロにすれば(地方税の均等割があります!)

「(損金不算入になる)交際費をゼロにすれば計算は簡単」のように思えます。

しかし、必ず生じる損金不算入項目があります。それは、赤字でも納税が必要な地方税の均等割です。均等割7万円(道府県2万円+市町村5万円という最低金額)を支払って利益ゼロの場合も法人税は課税されるのです。法人税を計上すれば赤字になります。

 

★繰越赤字

これがあるとより複雑になります。

「決算書では累積して赤字であるのに(「純資産<資本金」なのに)法人税が課税される」こともありますのでご注意ください。

 

 

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