利益と法人税6/11

寄附した覚えがないのに税務署が?

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪寄附金≫

 

「うちは寄付なんかする余裕はない」と高をくくってはいけません。

法人税法における寄附金は特殊な概念です。

 

 

1 法人税法における寄附金

 

(1)寄附金とは

法人税法において寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、会社が金銭その他の資産または経済的利益の「贈与」または「無償の供与」をした場合における、その金銭の額または金銭以外の資産の贈与の時の価額経済的な利益の供与の時の価額によります。ただし、贈与や無償の供与であっても、広告宣伝および見本品の費用、交際費・接待費・福利厚生費などは除かれます。

法人税法における寄附金とは、通常の意味における寄附金(国や学校などに対する公共的利益のための支出)だけでなく、資産の贈与や経済的利益の無償の供与のうち「事業に関連性が乏しいもの」ということです。(事業に関連しないとは、その支出に見返りがないのは当然として、会社とは無関係であるということです。)

 

(2)寄附金の損金算入が制限される理由

会社が各事業年度において支出した寄附金の額の合計額が、「一定限度額(損金算入限度額)」を超える場合には、その超える部分の金額は損金不算入となります。つまり、寄附金は損金算入限度額以内しか損金とはならないということです。

上記(1)のとおり、法人税法における寄附金は事業との関連性が乏しく、相手方に対する利益の分配に近い性質です。つまり、無制限に寄附金の損金算入を認めるならば、国が寄附金の相手方に補助金を交付(法人税が減少する部分について)するのと同じことになってしまいます。

しかし、たとえ寄附金と事業との関連性が乏しいといっても、まったく関連性がないわけではなく、事業との関連性があるけれども具体的に識別するのが極めて困難であると考えることもできます。そんなことから、法人税法においては、一定の形式的基準によって事業と関連する金額(損金算入限度額)を決定しています。(企業は自らの営利追求のみではなく、社会的責任を果たす義務があり、その社会的責任を果たしてはじめて存続発展できます。寄附金は企業の社会的責任を果たすための一手段であると考えることもできます。)

 

《金銭以外の資産の贈与》

土地、建物などによる寄附をいいます。

 

《経済的利益の無償の供与》

 債権放棄(貸付金や売掛金の放棄)、金銭の無利息貸付、債務の無償引受けなどをいいます。

 

《贈与や無償で供与した金額の計算方法》

法人税法独特の考え方です。

(例1)土地を寄附した

いったん売却しその代金を相手に渡したと考えます。帳簿上1000万円で時価2000万円の土地を贈与した場合には、2000万円の益金(売却代金)と2000万円の損金(贈与した額)と考えるのです。帳簿上の仕訳としては、借方・○○費1000万円、貸方・土地1000万円ですが、課税所得の計算における寄附金の額はあくまでも2000万円となります。

(例2)無利息貸付

 いったん相手先から利息を受け取り、すぐさま免除して利息相当額を返したと考えます。仕訳は発生しませんが、課税所得における寄附金の額にその利息相当額が加算されます(利息という収益と寄附金という費用が同額発生します)。

(例3)土地を時価よりも低額で売却した

時価と売却価額の差額(時価>売却価額)について、上記の(例1)と同様に考えます。

 

2 寄附金の例

 

(1)国や地方公共団体への寄附

会社が国や地方公共団体に寄附をする目的は、事業上の見返りではなく、会社としての社会的責任を果たすためであると考えられます(事業との関連性が乏しいあるいは未知数)。

(2)公益法人などへの寄附

会社が寄附をするのは、上記(1)と同様の目的と考えられます(事業との関連性が乏しいあるいは未知数)。

(3)子会社などへの支援

グループ会社からの救済の要請を無下に断れず、道義的理由から採算は度外視して無利息貸付、債権放棄などに応じなければならないことがあります(通常はこのような「合理性のないこと=事業との関連性が乏しいこと」はしない)。

(4)災害支援

会社は営利追求を目的としているとはいえ、人道的理由から支援をしなければならないことがあります(事業との関連性が乏しいあるいは未知数)。

 

3 寄附金とその他の費用との関係

 

表面上は同じような贈与や無償の供与であっても、それらが行われる背景や会社の目的によっては法人税法上の寄附金にはならないことがあります。

 

(1)役員などが個人的に負担すべき寄附金を会社が負担した場合

その役員に対する給与(損金不算入)となります。

(2)寄附金の支出が地方公共団体の土地などの固定資産の会社への払下げの条件となっている場合

 払下げを受けた資産の取得価額に含めなければなりません。

(3)寄附金によって地方公共団体が建設する施設を会社が将来にわたって専属的に利用できる場合

 実質は権利金であることから、繰延資産として処理しなければなりません。

(4)子会社などの整理に要する損失の負担がこれ以上の損失の回避のためであることが社会通念上相当な理由がある場合

 寄附金には該当しません(損金算入できます)。このような行動には経済的合理性があるからです(企業が営利追求のために当然行うことである=事業関連性も対価性もある)。

(5)子会社などの合理的な再建計画に基づいて行われる相当な理由のある緊急の無利息あるいは低利の融資

 本来受け取る利息相当額あるいは実際に受け取った利息との差額は寄附金とはなりません(損金算入できます)。このような行動には経済的合理性があるからです(企業が営利追求のために当然行うことである=事業関連性も対価性もある)。

 

4 寄付金の損金算入限度額

 

(1)一般の寄附金の損金算入限度額

「国または地方公共団体に対する寄附金」(下記(2))、「指定寄附金」(下記(2))、「特定公益増進法人などに対する寄附金」(下記(3))以外の寄附金を一般の寄付金といい、その損金算入限度額は次のとおりです。

(A)【資本金基準額】期末の資本金等の金額×(当期の月数/12)×(2.5/1000)

(B)【所得基準額】(当期の所得金額+損金経理した寄付金)×(2.5/100)

(A+B)×(1/4)=損金算入限度額となります。

 

(2)「国または地方公共団体に対する寄附金」と「指定寄附金」の損金算入限度額

その全額を損金算入できます。なお、「指定寄附金」とは民法34条の規定により設立された「公益法人」「その他公益を目的とする事業を行う法人または団体」に対する寄附金であり、広く一般に募集され、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など公益の増進に寄与するための支出で、緊急を要するものに充てられることが確実であるものとして財務大臣が指定したものをいいます。

これらの寄附金は会社の事業との関連性にかかわりなく損金算入できます。公益に役立つような寄附を推奨するための税制上の措置です。

【指定寄附金の例】国立大学法人、私立学校、日本赤十字社、日本学生支援機構に対する寄附金。

 

(3)特定公益増進法人などに対する寄附金の損金算入限度額

教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献など公益の増進に寄与するための寄附金で政令で定めるものについては、上記(1)の一般の寄附金の損金算入限度額とは別枠で、次のとおりの損金算入限度額が設けられています。

(A)特定公益増進法人などに対する寄附金の合計額

(B)【資本金基準額】期末の資本金等の金額×(当期の月数/12)×(3.75/1000)と【所得基準額】(当期の所得金額+損金経理した寄付金)×(6.25/100)の合計額を1/2した金額

(A)と(B)のいずれか少ない金額が損金算入限度額となります。

この寄附金は上記(2)国または地方公共団体に対する寄附金とは違って、寄附を受ける特定公益増進法人などの主たる目的である業務に関する寄附金に限定されます。

【例】社会福祉事業を行う地方独立行政法人、財団法人日本体育協会、財団法人日本オリンピック委員会

 

 

《寄附金の実際》

 

「寄附金」と聞くと、「うちは寄附なんてする余裕はない。むしろ、寄附してもらいたいくらいだ」といいたくなるかもしれません。しかし、上記の説明から法人税法における寄附金は世間一般でいわれる寄附金よりもその範囲が広く、会社として何気なく(相手先との関係や採算を度外視して)行う支出が寄附金として扱われ損金算入が制限されてしまうことをご理解いただけるかと思います。

実務上、寄附金として問題となりやすい支出の典型は次のとおりです。

 

政治団体や社会事業団体への寄附金

事業とは直接関係がありませんので法人税法における寄附金となります。問題はこれらの支出が「事業とは明らかに無関係」に行われる場合です。その典型は、本来、社長が負担すべき個人的な支出を会社が負担した場合ですが、社長への給与として扱われます(支出額が損金不算入となるだけでなく社長に所得税が課税されます)。

 

社長の出身校(国公立)への寄附金

国や地方公共団体に対する寄附金は原則として損金の額に算入できます(寄附により建設された施設が寄附をした者の専用となるような場合は除きます)。しかし、上記の「政治団体や社会事業団体への寄附金」同様、「事業とはまったく無関係(社長が個人的に依頼された寄附金を会社の資金から支出する)」に行う寄附金は、たとえ国などに対する寄附金であっても損金に算入することはできません(社長への給与として扱われます)。

 

寄附金の説明書

まともな(?)寄附金の場合、寄附金を集める目的や寄附金の使途を詳細に説明する文章を、寄附を依頼する際に配布することが通常で、その文章の中に必ず税金の扱いが記されていると思います。また、寄附金を支払ったならば領収書を発行してくれます。

 

寄附金と交際費などの違い

 寄附金は、交際費、広告宣伝費、役員の給与との区別が難しいのが現実です。しかし、中小零細企業においては、一般論として「会社に無関係な支出=社長の個人出費」と考えられることが通常です。つまり、寄附金らしき支出(交際費かもしれない)の多くは、本来は社長が個人的に負担するものであり、その支出相当額が社長の給与(損金不算入でかつ社長の所得となる)となります。(税務署は解釈が困難な寄附金とするよりも、社長の給与(損金不算入)と認定し修正申告を促してくることが通常です。特にその内容を会社が説明しない場合にはこのような傾向にあります。)

 

 

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