利益と法人税2/11

税務署は何を根拠に?

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪法人税の法令と通達≫

 

法律の定めがない限り租税は課されません。

しかし、税に関する法律は緻密で、そう簡単に課税逃れはできません。

 

 

1 租税法律主義

 

日本国憲法において、国民(自然人、法人)は法律の定めにより納税の義務を負うこと(30条)、租税を課すには法律の定めによること(84条)が定められています。租税が国家権力によって強制的に国民の富の一部を国家に移転させる性質である以上、このような国家権力の濫用から国民の自由と財産を守るためには租税法律主義が貫かれなければならないのは当然のことです。

当然ながら法人税も「法人税法」「法人税法施行令」「法人税法施行規則」その他の法律(以下これらを法人税法とします)に基づいて課税がなされます。裏を返せば、課税に関して不公平あるいは道義に反する事象が起こっていても、その件を解消する法律がないかぎり課税されないということです。世の中には、この租税法律主義の盲点を突く節税方法も存在しますが、早晩に封じられてしまうことが通常です。

 

租税法律主義の具体的内容は以下のとおりです。

 

(1)課税要件法定主義

課税要件とは「納税義務者(租税を負担すべき者)」「課税物件(課税の対象となる物、行為、事実)」「課税物件の帰属(課税物件と納税義務者との結びつき)」「課税標準(課税物件を金額・価額・数量で表したもの)」「税率(課税標準に対して適用される比率)」をいいます。租税法律主義においては、これらについて必ず法律により定める必要があります。

 

(2)課税要件明確主義

上記(1)のとおり課税要件は法律により定めなければなりませんが、その定めは漠然とした内容ではなく、明確で具体的でなければなりません。

 

《不確定概念》

課税要件明確主義からすれば、条文において抽象的・多義的な概念、いわゆる不確定概念は用いることができないはずです。しかし、現実の条文には次のような不確定概念が用いられています。

「不当に減少させる」

「不相当に高額」

「相当の理由」

たとえ不確定概念であっても、法の趣旨からしてその意義が特定できる場合には課税要件明確主義に反しないと考えられますが、恣意的判断や濫用のおそれがある場合には課税要件明確主義に反すると考えられます。

 

2 法人税法の体系

 

(1)法人税法(法律=議会で制定)

法人税法においては基本的・一般的事項のみを定め、細則は下記の法人税法施行令と法人税法施行規則で定めています(多くの場合は委任しています)。

 

(2)法人税法施行令(政令=内閣が制定)

 

(3)法人税法施行規則(省令=各省大臣が制定)

 

《国税通則法・国税徴収法・国税犯則取締法》

国税については税目ごとの法律となっています。しかし、各税目についての申告、納税、徴収などについては共通的な事項もあります。そこで、国税通則法、国税徴収法、国税犯則取締法で各税目についての基本的・共通的事項を定め、各税目の条文に定めがない限りこれらの規定が適用されます。

 

《租税特別措置法》

個別の租税法(法人税法など)に対する特例的な事項を定めています(主に経済政策・租税政策上必要な措置を定めています)。

 

3 通達

 

「通達」とは、国税庁長官が国税庁内部で発する「法令の解釈」や「税務行政上の指針」です。法人税の計算要素は多種多様で日進月歩の経済事象を対象としているために、法人税法の解釈について見解が分かれることもめずらしくはありません。そこで、税務行政の統一性を図るために「通達」が発せられています。あくまでも「通達」は、国税庁内部(国税局、税務署含む)の指針に過ぎませんが、納税者側が争わない限り事実上納税者を拘束します。なお、「通達」は納税者に国税庁の正式な統一的見解を示すことにより、公正な税務行政を実現する役割も果たしています。(通達の多くが公表されています。)

 

《通達に従いたくない!!》

まずは条文を読み、次にその通達がどのような解釈をしているかを明確にすることです。それで納得がいかない場合には、あくまでも自身の解釈に基づいて処理することです。そして、税務署が修正申告書の提出を促してきてもそれに応じないことです。なお、このような場合、最終的には法廷での争いになりますが自信を持って反論できるでしょうか?

【条文と通達の例】

●益金(収益)について(詳細は「益金」をご覧ください)

条文・法人税法22条2項・4項(益金は企業会計における収益とする)

通達(かなり具体的な例について詳細な指針が示されています。)

 

4 事実認定

 

法人税法を正確に適用するには、正確な事実認定が必要となるのはいうまでもないことです。しかし、この事実認定が容易でない場合があります。そのような場合には、推計値による課税、事実を仮装隠蔽することに対する各種加算税が課されるなどについての定めがあります。

 

 

≪同族会社≫

 

わが国の多くの企業は法人税法における同族会社です。

ともすれば、同族会社は課税逃れのために異常な行動(契約、計算など)をしてしまいます。

(課税逃れのために「形式」のみを整える。)

法人税法はそれに対して一定の歯止めをかけています。

 

 

1 同族会社とは

 

世間一般で同族会社とは、家族や親族を中心に経営している会社をいいます。しかし、法人税法における同族会社とは、3人以下の株主等(株式会社では株主、合名・合資・合同会社では社員)で会社の「発行済株式の総数または出資の総額」「議決権の総数」「社員(合名・合資・合同会社)の総数」の50%を超える会社という明確な定義があります。

 

株主等には個人だけでなく法人も含みます。また、株主等とその同族関係者を合わせて1人の株主等とされます。

 

●他人同士の株主等が3人以下の会社

●株主等が10人で全員が親族である会社

●同族会社の100%子会社

 

以上、いずれも同族会社となるということです。(同族会社に該当するケースはこれ以外も多数あります。)

 

《株主名簿?》

中小零細会社の場合には誰が株主であるか(株主の氏名とその保有株数)が明確でないことも多いです。設立当初は誰が株主であるかが原始定款に明記されていますが、その後の株式の移転(譲渡や相続など)が当事者の口約束だけで行われていることも多く、株主が異動した時期や異動した株数が明確でなく同族会社に該当するかの判定が容易でない場合もあります。

 

《別表2》

法人税申告書の別表2で同族会社に該当するか否かについての判定をしなければなりません。この別表2の記載が不正確であれば、同族会社独自の課税計算が正確に行えないということですので、税務署はこの表の真偽について入念に検討します。

 

2 同族関係者

 

法人税法における同族会社の判定にあたっては、各株主等とその同族関係者の有する株式の総数または出資の総額を考慮して(グループ化して)考えますが、同族関係者とは次の者をいいます。

 

(1)同族関係者となる個人

(イ)株主等の親族(配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族)

(ロ)株主等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁の配偶者)

(ハ)株主等である個人の使用人(法人株主やその会社自体の使用人は含まれない)

(ニ)(イ)から(ハ)以外の者で株主等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者(いわゆる妾など)とその者と生計を一にする親族

 

(2)同族関係者となる会社

(イ)ある株主等の株式あるいは出資の保有割合が50%を超える会社

(ロ)ある株主等とその同族関係者となる会社(上記(1))の保有割合合計が50%を超える会社

(ハ)ある株主等とその同族関係者となる二つの会社(上記(1)と(2))の保有割合合計が50%を超える会社

(ニ)同一の個人または法人の保有割合が50%を超える二つの会社(2社を同一グループとします)

 

3 同族会社に対する課税

 

同族会社においては、特定少数の株主や役員が経営上のあらゆる意思決定の実権を握ることから、会社の行為や計算を不当に左右して、法人税の負担を合法的に回避することが少なくありません。例えば、親族や近親者を役員あるいは従業員とし給与を支払い所得を分散させる、利益を配当しないで法人税率よりも高い所得税率を回避するなどです。そんなことから、法人税法においては同族会社に対しては次のとおり特別な規定を設けて、一般の会社との課税上の公平を期することにしています。

 

(1)使用人兼務役員の範囲の制限

役員に支給する賞与(ボーナス)は損金の額に算入することができませんが(事前に税務署に届け出た場合には損金算入することができます)、使用人兼務役員に支給する使用人としての賞与(ボーナス)は損金の額に算入することができます。しかし、同族会社においては、使用人兼務役員の範囲が一般の会社よりも厳しく制限されており、保有割合が一定限度を超える株主(社員)である役員については使用人兼務役員となることができません。実質上役員である者が形式上使用人兼務役員であるような外形を作り出し、その使用人部分の賞与を損金の額に算入することができないようするための規制です。

 詳細は、5/11≪役員などに対する給与≫をご覧ください。

 

(2)行為または計算の否認

税務署長は、同族会社の法人税についての更正または決定(注)をする場合において、同族会社の行為または計算をそのまま認容するならば、法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるものがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところによって、その会社の課税標準、欠損金額、法人税額を計算することができます。

同族会社は、特定少数の首脳者によって運営されていることから、法人税の負担を不当に減少させるために、通常の会社では考えられない異常な行為や計算を行うことも考えられます。このような場合には、税務署長は正常な行為や計算に「置き直して」その会社の課税標準、欠損金額、法人税額を計算することができるということです。(なお、これはあくまでも税金の計算において行為や計算が否定されるということであり、その他の効力までも否定するものではありません。)

(注)「更正」とは税務署長が申告書の諸数値を計算し直すことをいい、「決定」とは申告がない場合に税務署長が申告書の諸数値を計算することをいいます。

 

(3)留保金に対する特別課税(特定同族会社のみ)

同族会社では、個人の所得課税が超過累進税率であることから、必要以上に配当を抑えて株主等の所得税負担を減少させる傾向にあります(利益を分配しない傾向にあります)。そこで、同族会社については一定の限度を超えて所得を留保した場合には、基本税率による法人税のほか特別税率による法人税の加算課税を行います。

 

 

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