試算表(業績の把握)3/7

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪購買実績の把握≫(仕入高)

 

損益計算書で、購買実績は「仕入高」として表示されます。仕入高は発生主義により計上されます(仕入代金の支払いに前後して計上されます)。

購買活動のサイクルは以下のとおりであり、購買実績を正確に把握するためにはこのサイクルに応じた正確かつ規則性のある計数の把握が必要となります。

●発注

●納品・検品(返品)

●請求→代金の支払

 

企業において上記のサイクルを行うのは「購買部門」といわれる部署で、その記録もこの部署が行うことが一般的です。

 

1 発注

 

正確な仕入高を把握するためには、発注の段階から次の情報を記録しておく必要があります。

 

(1)仕入先に関する情報

「仕入先名」、「所在地」、「担当者」などを記録しておく必要があります。

 

(2)発注内容に関する情報

発注品の内容(品名と数量)、仕入単価について記録しておく必要があります。

 

(3)入荷に関する情報

「入荷予定日」、「納品場所」について記録しておく必要があります。

 

(4)代金支払に関する情報

「支払日」、「支払条件」について記録しておく必要があります。

 

(5)アフターサービスに関する情報

納品後のメンテナンスや不具合発生時の対処方法について記録しておく必要があります。

 

【発注簿】

発注記録は発注簿に記録しておきます。必須の記録内容は「仕入先名」、「発注品名」、「数量」、「単価」です。形式は、「一覧表形式」(多くの場合は発注日付順)、発注単位ごとの「票形式」(発注伝票などを作成します)が一般的です。しかし、発注に関しては意外にルーズな中小零細企業が多いのが現状です。口頭により発注し、納品時の検品は目分量、送られてきた請求書で事後的に発注の大まかな正確性を確認しているのが実情です。悪質な業者ならば、このような実情につけ込み過大請求することもあります。確かに、発注簿の作成は大変ですが、口頭による発注を禁止し注文書の控えを残すことをもって発注簿に替えること程度は必要です。

 

【売買契約書】

発注金額が多額な場合は、発注にあたり契約書を作成することが一般的です。記載内容は上記の(2)から(5)のみならず、円滑な取引を行うための一切の事項を記載することが望まれます。また、仕入先が作成している「取引約款」を入手し一読しておくことも最低限必要です。

 

【購買管理ソフト】

市販されている購買管理ソフトの多くが、この発注段階から記録(入力)する仕組みとなっています。しかし、購買管理ソフトは「多品種を多数の仕入先から仕入れる業種(卸売業)」を前提に設計されていることが通常で、業種(小売業、建設業、サービス業)によってはうまく活用できないことがあります。また、前述のとおり発注管理が不十分な会社の場合は、操作のスタートである発注記録の入力につまずき有効に使いこなせていないことがあります。

 

【現金仕入】

仕入先の店舗や倉庫で現物と引き換えに支払を行う場合は、発注管理を行う必要はありません。

 

2 納品・検品

 

仕入先から商品が到着したならば次の作業を行う必要があります。

 

●送り状(同封されている発送内容の明細)と現物との照合

●送り状と発注簿の照合(注文内容との照合)

●不良品の有無の検討

 

3 請求

 

仕入高の計上は発生の時点で行う必要があります。発生の時点とは「納品」のあった時点ですが、実務上は「請求書が届いてから」納品の時点で仕入計上します。(特に、多品種で大量の仕入を行う場合には、納品書には品名と数量の記載しかないことからこのようにしなければなりません。つまり、たしかな金額を把握するには請求書の送付を待つしかないのです。さらに、取引条件によっては期間ごとの購買高によって金額が異なることがあり、期間が終了し請求書が送付されてくるまで金額が判明しないこともあります。)

 

請求書の記載内容は仕入先によって様々でしょうが、次の事項が記載されたものを入手したいものです。

 

(1)請求日付と請求期間

(2)前月繰越金額

(3)当月販売高((イ)納品日、(ロ)商品名、(ハ)数量、(ニ)単価、(ホ)(ハ)×(ニ)とその合計)

(4)当月入金額

(5)当月請求金額((2)+(3)−(4))

 

(消費税の処理)

いわゆる税抜処理の場合には、(3)当月販売高は「本体価格」と「消費税額」に分割されます。

 

【仕入先元帳】

仕入先ごとの仕入計上記録は仕入先元帳に記録しておきます。仕入先元帳の記帳は納品単位で行う必要があります。なお、仕入先元帳の具体例につきましては試算表(財政状態とは)≪買掛金≫をご覧ください。

 

【仕入高一覧表】

一定期間(通常は月ごと)の仕入先別仕入高を仕入先元帳から集計します。これが先方からの「請求合計」となります。また、各仕入先の仕入合計を一覧できる表を作成しておくと大変便利です。全仕入先の金額を合計したものがその月の仕入高合計です。

仕入先名

前月繰越

当月仕入高

当月支払

当月残高

○○物産

 

 

 

 

○○林業

 

 

 

 

○○興産

 

 

 

 

合計

 

 

 

 

「前月繰越」とは前月以前に仕入計上された分の当月初めの代金未払額です。月末締めの翌月支払いの場合には、この金額は前月の当月仕入高に一致します。

「当月支払」とは前月繰越と当月仕入高のうち当月に代金の支払いをした部分です(仕入先元帳から導きます)。月末締めの翌月支払いの場合には、この金額は前月繰越に一致します。

「当月残高」=前月繰越+当月仕入高−当月支払となります。

(消費税の処理)

上記の表はいわゆる「税込処理」を前提としていますが、「税抜処理」の場合には当月仕入高を「本体価格」と「消費税額」に分割します(2段書きにしてもよいと思います)。また、税抜処理の場合には仕入先元帳の段階でも本体価格と消費税額に分割しておく必要があります。

 

【振替伝票の起票】

仕入高を試算表に反映するためには、振替伝票の起票つまり仕訳を起こす必要があります。個々の仕入計上の記録は仕入先元帳にありますので、仕訳は仕入高一覧表から一定期間の合計で行えば足ります。試算表の仕入高合計と仕入高一覧表の仕入高が一致するのはいうまでもありません。

 

【締日と試算表作成期間の不一致】

仕入先は代金の請求を納品の都度してくるのではなく、一定期間分を集計して請求書を発行してきます。いわゆる「締日(しめび)」です。ほとんどの企業が事業年度を特定月の初日から一年後の月末終了としており、月次試算表は月単位(月初から月末)で作成しています。ところが、締日(請求期間)は当月21日から翌月20日など試算表作成期間と一致しないことがあります。この場合、試算表に計上された仕入高の金額が試算表作成期間と一致しません。

(年度末での調整)

締日は取引上の慣習です。しかし、決算書はあくまでも会計期間で作成しなければなりません。そこで、年度末には締日と会計期間を一致させるため、締日以降年度末までの仕入高を特別に集計し計上しなければなりません。

なお、翌年度の「開始月」では次の処理を行います。

(A)とりあえず通常月と同じように締日で仕入計上する

(B)前年度の決算で計上した締日以降決算日までの仕入高を減額する(反対仕訳を起こす)

(A)の中には前年度分が含まれていますので、(B)により取り消しておく必要があります。

(毎月の調整)

月次決算においても、締日とは無関係に試算表作成期間で仕入高を把握することが望ましいことはいうまでもありません。購買管理ソフトを利用している場合は、集計期間の設定が自由自在にできると思いますので是非とも仕入高を試算表作成期間に一致させてください。それには、個々の仕入高のタイムリーな処理が必要となりますが。

 

4 代金の支払

 

仕入先元帳あるいは仕入高一覧表を基に行います。

 

《仕入計上における発生主義》

 

発生主義においては、費用を発生した時点に計上する(入出金に前後して計上する)といっても、発生の意味は費用の内容によって様々です。仕入計上における発生は次のとおりであり、次の要件を満たしているならば仕入計上しなければなりません(要件を満たしていない場合には仕入計上することはできません)。

 

(1)商品が納品されていること

商品や材料などが手元に到着していることが必要です。(本来は納品されているはずの商品を、便宜上、仕入先に預ってもらっている場合には仕入計上することができます。納品されているとは、売却や使用を自由にできるという意味です。)

 

(2)代金の支払い義務を負っていること(代金が確定していること)

正当な発注であるならば、代金については発注の時点で決まっているはずです。

 

《代金の請求と仕入計上基準の関係》

 

通常は、当月の請求合計=当月の仕入高となるはずです。(ある月の仕入高とは、その月の日付で請求書が送られてくる金額の合計と理解しておけばよいということです。)

しかし、次のような場合には両者は一致しません。

 

(1)代金の前渡し

当月は当月の請求合計>仕入高(前渡し相当額について納品された以上に請求してくる)となりますが、翌月は当月の請求合計<仕入高(翌月に前渡しはないとすれば)となります。(仕入代金を前渡ししたとしても、納品がありませんので仕入計上することはできません。上記《仕入計上における発生主義》をご覧ください。)

 

(2)不良品などが仕入先の請求書に反映されていない

当方では検品の結果、不良品や品違いと判明した場合には仕入計上しませんが(支払いませんが)、そのことの連絡が仕入先に届いていない場合には当月は当月の請求合計>仕入高となりますが、翌月は(仕入先が不良品などであることを認識してくれれば)当月の請求合計<仕入高(翌月に不良品などがないとすれば)となります。

 

 

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