会社の節税効果


2020/4/2

税理士のセールストーク(会社設立による節税メリットのインチキ!)

★会社を設立すると、個人事業者の課税対象である「事業所得」が役員報酬という「給与所得」になり、そこから「給与所得控除」を差し引けるので、その分節税になる(事業所得を圧縮できる)。

会社設立の節税メリットの典型です。税理士(会計事務所)のセールストークです。この説明で、多くの人が役員報酬は会社の利益状況に応じて臨機応変に変更でき、結果として法人税が課税される会社の利益をゼロにできると思い込んでしまいます。

しかし、これには大変な落し穴があります。この説明は、役員報酬は役員の職務内容に応じて、「一定の期間(通常は1年間)」「一定の時期に(通常は毎月)」「一定金額を定額で」支給するものでない限り損金算入(費用処理)を認めないという「法人税法の鉄則」を隠したインチキの説明です。法人税法では、役員報酬を頻繁に変更することで法人税が課税される利益の操作をすることを認めないのです。

会社設立後にぶつかる壁(税理士との喧嘩別れ)

▲依頼者「役員報酬が高いと所得税も社会保険料も高くなるので下げてもいいですか?」

会社設立後、業績が悪化したときに、税理士にそのような相談をすれば、税理士は次のように答えるでしょう。

▼税理士「役員報酬はそう簡単には変更できません。そのうち業績も上向くでしょうから下げてはいけません。」

結局、「取れもしない役員報酬」についての高額な「所得税」「住民税」「社会保険料」を支払う羽目になります。帳簿処理上は、いったん役員報酬を支払い、直ちにその役員から借りたという扱いにするのです(役員にすれば会社に貸している)。これでは、会社設立後の役員報酬は個人事業者の事業所得を上回り、せっかくの給与所得控除を活かすことができません。

さらに、その苦しみの最中、「役員変更登記費用(株式会社の場合には役員の顔ぶれに変動が無くても定期的な役員再選の登記が必要です)」「住民税の均等割(会社が赤字でも納める税金)」が襲いかかってきます。

▲依頼者「それなら、役員報酬以外の名目で(所得税が課税されない方法で)会社からお金を引き出す方法はないのですか?」

と相談すれば税理士は血相を変えて(会社設立手続を依頼したときとは別人のように)、

▼税理士「私の顔に泥を塗るのですか!そんな方法はない。法人税法と所得税法は当然として、憲法、民法、会社法いずれにおいても許されない方法だ。もし、領収書を偽造しようものなら犯罪だ!!」

と答えるでしょう。

税理士と依頼者が喧嘩別れする、典型的パターンです。

税理士にとって都合のよい(依頼者が会社制度を十分理解しないままでの)会社設立が目立ちます。なぜならば、会社にすると税務申告が複雑になり、素人では行うことができず、依頼者に逃げられなくなると同時に報酬も大幅に上がるからです。税理士によっては、会社設立の理由として「事業拡大」「事業永続」「経営管理の強化」などもっともらしいことを語りますが、そのような税理士に限って、いざとなったときに一切あてになりません。

「いざというとき、個人成り(会社から個人事業者する)の方法はあるのか」「個人成りの手続をしてくれるのか」「その費用はいくらか」、必ず、税理士に確認してから会社を設立してください。

会社の利益に対する法人税率>役員報酬に対する所得税率

わが国の法人税率は23.2%です。このほかに住民税と事業税が課税されますが、ここでは度外視します。一方、給与所得として所得税の課税対象となる役員報酬の所得税率は5〜45%です。このほかに住民税が課税されますが、ここでは度外視します。

わが国の中小零細企業の多くは大企業の下請け的存在、あるいは大企業が参入しない収益性の低い市場が主戦場であることから、そう簡単には儲けることができません。そんなことから、中小零細企業経営者の役員報酬はそんなに多く取ることができず、役員報酬に対する所得税率も10%か、せいぜい20%(注1)に甘んじていることが大半です。つまり、突発的に利益が出て役員報酬に対する税率よりも高い23.2%(注2)の法人税が課税されるのは、中小零細企業にとっては大変な負担感があるのです。このような事態を避けるために、業績不振時も役員報酬を減額せず(当然受け取れません)に赤字を累積させているのが実情です。ある年度に計上された赤字は翌年度以降10年間繰り越して、利益の出た年度の利益から差し引くことができます。

しかし、これでは(赤字では)金融機関の評価が下がりますので、業績不振時もわずかに利益を計上しなければなりません。利益を計上するにあたっては、役員報酬を大幅に減額するという方法ではあまりにも稚拙ですので、大幅な経費削減によらなければなりませんが、それにも限度があります。そこで、交際費などは役員のポケットマネーから支払い、会社の帳簿には表れないようにしているのが実情です。当然、このままでは、突発的に多額の利益が出た年度に大慌てすることになります。

(注1)給与総額に対する所得税の比率となればさらに低くなります。給与総額からは給与所得控除が差し引かれ、さらにそこから各種の所得控除(基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除など)を差し引いた金額に対して所得税は課税されるからです。

(注2)資本金が1億円以下の会社の場合は、利益が800万円以下の部分については15%です。

役員のボーナスの扱い(諸悪の根源?)

これが、会社設立の節税メリットを吹き飛ばしてしまう諸悪の根源(?)です。法人税の計算上、定期・定額で役員に支給する役員報酬は役員の労働の対価として費用処理できますが、不定期(利益が出たときなど)に役員に支給するボーナスは利益の分配(利益調整)であるために費用処理が認められません。つまり、役員報酬は会社が収益を上げる、会社を維持するための費用とされますが、役員のボーナスは結果としての利益を役員に分配するものであるため費用とはならないのです。

例外として、事前に税務署に届けた役員のボーナスは費用とできます。事業年度開始から3ヶ月以内に、支給時期や支給額を税務署に届けておけば役員のボーナスを費用とすることできるのです。ただし、事前の届けに反するような方法(時期と金額)でのボーナスの支給は、その全額が費用とは認められません。ですから、こんなのはボーナスではありません。あらかじめ決まっている年俸を月ごとの給料と賞与に分割して支給しているだけです。

役員報酬を自由に変動させることができない理由

「利益の変動に応じて役員報酬を変動させることの何がいけないのだ?」
「合理的に考える人であれば節税のためにそのようにすることは当然ではないか!」
「わが国の税制(法人税法)は一般常識を無視している!」

よくこのような「怒りの声」を聞きます。

役員報酬を利益に応じて変動させることができないのは、「会社という仕組み」がそうであるからです。会社の役員(取締役と監査役)は年に一度の株主総会で選任され、選任後は1年ごとに株主総会で株主から評価が行われます。ですから、1年間の職務の対価である役員報酬も1年間は固定されるのです。

株主総会は事業年度終了の翌日から3か月以内に開催しなければなりません。事業年度が4月1日から翌3月31日の会社が6月中旬に株主総会を開催するとしたら、その6月から翌年5月までの間に支給する役員報酬は定額となるのです。これが役員報酬というものなのです。

ですから、年度途中に役員報酬を増額しても、それは役員の職務の対価(経費)ではなく「利益分配」である役員賞与(ボーナス)と扱われるのです。利益分配とは、収益から費用を差し引いた利益を株主には配当、役員には賞与として分けることです。この利益分配でも支出は伴いますが経費とは性質が異なります。

節税のみを目的とした会社設立は高度成長期(昭和時代)の「遺物」

会社設立は、過去の高度成長期(昭和時代)に、親族中心の中小零細企業が親族への所得分散により節税する方法としては極めて有効でした。また、社会保険(厚生年金)に加入して老後の保障を手厚くできるという魅力もありました(注)。しかし、現在は会社形態であることが負担(赤字でも課税される住民税の均等割、社会保険料、登記費用、税理士報酬など)となっている中小零細企業が多いのが実情です。

(注)個人事業者の場合には、親族への給与支払について制約があります。また、個人事業者では社会保険への加入にも制約があります。

これからは、会社設立の意義を節税以外のことに見出していく必要があります。それを見出すのは貴方自身です。(今後も、節税メリットが一切ないというわけではありません。)

会社設立にあたっては、何よりも貴方自身が、「会社は、私の財産、私の人生そのもの」「何が何でも守り抜く」「この会社を通して社会に貢献する」との強い意志を持ってください。このような意志があれば、「法人税率は・・%で、所得税率は・・・」というような、下衆な考えは浮かんでこないと思います。会社であるがゆえのコストは、趣味や自身が本当に価値ありと考えるものに対する出費と同じになるのではないでしょうか。

税理士は、陰ながら貴方を支えてくれます。