設立3年


2020/4/2

会社を設立して3年、「やり忘れたことはないか?」「見直さなければならないことはないか?」「次の3年は何が起きるのだろうか?」が気になると思います。

税務申告

会社設立後3年、申告書の提出と税金の納付ができているからといって安心はできません。

税務申告というのは、必要な書類がそろい、それに必要な記載がされていれば役所は申告書を受付けてくれます。誤りは直ちに指摘されるのではなく、数年後の税務調査においてです。役所は節税や事務手続の効率化など、納税者に有利なことは教えてくれません。役所は納税者に対する「サービスを提供する所」ではなく、納税者が申告義務を果たしているかを「取り締まる所」なのです。

◆申告書の控は保存しているか(受付印はあるか)

申告書を提出した税務署などの役所は、申告後に申告内容について質問をしてくることがあります。これに答えるには、提出した申告書と同じものを控として保存しておく必要があるのです。

申告書を提出する際、各役所は持参した申告書の控に「受付印」を押印します。この受付印が思いのほか重要です。金融機関に融資の申込みをする際には、申告書控の写しを提出しなければなりませんが、受付印がないものは控であると認めてもらえません。(電子申告で提出する場合は送信受付画面を印刷したものが受付印に相当します。)

◆消費税の申告を忘れていないか

資本金が1000万円以上の会社は1年目から消費税の課税事業者となります。資本金が1000万円に満たない会社は、売上などの状況に応じて、2年目あるいは3年目から消費税の課税事業者になります。

課税事業者になったことが法人税申告書の添付書類である決算書から一目瞭然の場合は、税務署も課税事業者になったことを連絡してきますが、そうでない場合は連絡をしてきません。このような場合に、消費税の申告をしていなかったことの指摘を受けるのは、税務調査のときになります。

◆税務関係の諸届け

「設立届」に「青色申請」あたりまではほとんどが提出できています。しかし、「(源泉所得税)納期特例」「(消費税)簡易課税」あたりになってくると忘れていることが多いです。

◆地方税は事業所の所在地で申告しているか

国税(法人税と消費税)は登記上の本店所在地を管轄する税務署で申告をします。一方、地方税(都道府県民税、事業税、市町村民税)は登記上の本店所在地ではなく、事業所(活動拠点)の所在地を管轄する役所で申告をします。(通常は、本店所在地と事業所所在地が同じであることが多いです。)

登記上の本店所在地で引き続き営業をしているけれども、別の場所でも営業をするようになったのであれば、その場所を管轄する「役所にも」地方税の申告をしなければなりません(その事業所の管轄が登記上の本店所在地と同じ場合は申告不要)。

当初は登記上の本店所在地で営業を行っていたけれども、登記はそのままで別の場所で営業をするようになった場合は、地方税の申告書を提出する役所は変わります(移転前後の事業所を管轄する役所が同じ場合は変わらない)。

★源泉徴収

恐ろしいのは源泉徴収です。

役員報酬や正社員の給料からの源泉徴収はできていると思いますが、間違いが多いのはパートやアルバイトの給料の源泉徴収です。副業として働いている者については、「月額88,000円に満たなければ源泉徴収は不要」というルールが当てはまりません。いわゆる「乙欄」を適用して月額88,000円未満の給料であっても3.063%を乗じた額を源泉徴収しなければなりません。

源泉徴収は給料以外を支払う者(個人)からもしなければなりません。税理士、司法書士、弁護士、ライター、作曲家、デザイナー、講演会の講師、翻訳家、通訳など、非常に身近な人たちから源泉徴収をしなければなりません。これを忘れていることが非常に多いです。「私の請求からは源泉徴収をしてください」と告げてくる者は「ほんの一握り」です(税理士、弁護士、司法書士など士業に限定されると思います)。源泉徴収は、支払をする者が、源泉徴収すべきことを認識しなければならないのです。

「あの人の税金なんだから、あの人から取ってくれ!」、これが一切通用しないのが源泉徴収の恐ろしさです。

帳簿類の保存

会社を設立して3年経過すれば、少なくとも3回は税務申告をしており、税務申告の前提として帳簿を作成しています。しかし、その帳簿が「体系的に保存」されていないことがあります。各帳簿の相互関連、決算書や税務申告の数値との関連を確認しておかなければなりません。

会社が最低限そろえなければならない帳簿は次のとおりです。

○売掛帳・・・販売と代金回収の記録
○買掛帳・・・仕入と代金支払いの記録
○現金出納帳・・・現金の出入りの記録(経費の支払いはこれに記録される)
○預金出納帳・・・預金の出入りの記録(経費の支払いはこれに記録される)

これだけの帳簿がそろっていれば、「売る」「仕入れる」「諸経費を支払う」という会社の活動の全貌を「網羅」することができます。仕訳の漏れや重複も防げるのです。

以上の帳簿を基に取引を仕訳して下記の帳簿を作成します。

○仕訳日記帳(振替伝票、入金伝票、出金伝票と内容は同じ)
○総勘定元帳と補助元帳

総勘定元帳は試算表で勘定科目別に集計され、試算表の各勘定科目が決算書の貸借対照表と損益計算書に割り振られます。

事業活動の結果として生じた、「入出金(現金と預金が変動する)に関連する」すべての出来事はこれらの帳簿のどこかに記録されます。そして、その記録が決算書(貸借対照表と損益計算書)や税務申告の基礎データとなるのです。

初めての税務調査

会社設立後3年が経てば、そろそろ税務調査のことが気になると思います。実際、会社設立後3年で税務調査の対象になる会社は多いです。調査の対象となるような会社は順調に業績が伸びていると思います。固定客が増え、安定した供給をしてくれる仕入先も確保し、仕事を任せられる社員も育ったその矢先、思いもよらない「敵」の出現にうろたえる人は多いです。

●税務調査の選定基準
全ての会社が3年ごとに「調査対象候補」とされ、その中から申告数値に異常性がある会社に対して重点的に調査を行っているようです。異常性とは、本来あるべき申告税額よりも少ない税額で申告している疑いがあるということです。

●税務調査はどのようにして行われるのか
税務署の調査官が会社まで来て、申告の基となった帳簿やその基資料(領収書や預金通帳など)を調べます。なお、税務調査は主に国税(法人税、消費税、源泉所得税)に関する役所である税務署が行います。

●税務調査の事前通知は行われるのか
税務調査の2週間程度前に、電話で会社の代表者に(税理士に依頼している場合は税理士に)、調査を行う旨と調査の対象となる申告(税目と期間)を通知し、日程や場所などについての調整を行います。

●修正申告(当初申告よりも税額を増やす)
調査の結果、修正事項(当初申告よりも税額が増える事項)がある場合、税務署は「修正申告書」の提出を求めます。税務署の指摘に反論の余地がある場合は修正申告する必要はありませんが、反論の余地がない場合は指示に従うしかありません。

●税務調査で追加納税が必要となった税額はいつ納付するのか
修正申告書提出後、直ちに納付しなければなりません。しかし、資金繰り上そうはいかない場合は、税務署に相談すればいくつかの方法(分割納付など)を検討してくれます。

●加算税と延滞税(税務調査のペナルティ)
税務調査で修正事項があった場合には追加分に加え加算税に延滞税というペナルティも払わなければなりません。

●なぜ、もっと早く指摘してくれなかったのか
税務調査は遅れてやってきます。そこで、「ばれないな(笑)」と税務署を侮り、ついついエスカレートしてしまいます。何よりも悲惨なのは、業績下降期に全盛期の税務調査が行われることです。「無いから払えない」は通用しません。払うべきものを使ってしまったのですから。

●税務調査が不安で夜も寝られない
もし、自身の非が明らかだと思える場合は、税務調査を待たずして自主的に修正申告することです。加算税が課されないからです。自主的に修正申告をしたからといって税務調査が省略されるわけではありません。税務署は「本当に正直に修正したか?」「ほかに修正事項は無いのか?」と考えるのです。自主的な修正申告は、税務調査のショックをある程度和らげるという効果しかありません。なお、税務調査の通知を受けてから「自主的に修正申告をいたしますので加算税は課さないでください。また、税務調査は止めてください」は認められません。

決算数値の推移と変化

設立から3年も過ぎれば決算数値のデータも蓄積され、そのデータを分析し検討すれば経営上の課題や今後進むべき方向が見えてきます。

■損益計算書の諸数値

過去3事業年度分を比較してみます。

○売上が増えている
○利益も増えている

当然、そうでなければなりません。

次は「利益の質」を検討してみます。

○売上は順調に伸びている
突発的に生じた売上ではなく、取引先件数、取扱品目、営業エリアなどを着々と増やしながら売上が伸びていなければなりません。

○必要なコストを吸収できている
「社員の昇給を見送っている」「必要な設備投資をしていない」などは問題の先送りです。必要なコストを抑えてまでの利益はいつまでも続きません。

■貸借対照表の諸数値

これも3事業年度分を比較してみます。

○資産は増えている
資産は増えていなければなりません。かといって、資産の中に不良資産が含まれているようではいけません。回収が遅れている売掛金、なかなか販売できない製品や商品が資産に含まれていないかを検討しなければなりません。これらは、いずれは目減りして現金として回収されます。

○負債の増加は資産の増加よりも緩やか
事業規模を拡大すると負債は増えます。仕入代金の未払部分である買掛金、設備投資や運転資金のための借入金も増えます。この増加のペースが資産の増加ペースよりも緩やかであれば問題はありません。

○純資産は増えている
「資産は増え」「負債の増加は資産の増加ペースより緩やか」という状態であれば純資産(資産−負債)は増えます。この背後には利益の存在があります。

★初期投資は回収できているか
設立時の投資が回収できているかも気になります。商品は販売済みであれば損益計算書に費用として計上されています。店舗設備は減価償却しますので、全額が3年で費用として計上されているかはわかりません。店舗の保証金(解約時に返済される)は費用とはなりません。このように、損益計算書の利益からだけでは判断できないこともあります。

★この先、借入金の返済はできるか
借入金の元金返済は損益計算書には表れません。借入金は利益を財源に返済します(支出を伴わない減価償却費などの費用は除いて利益を計算します)。過去3年の損益計算書から予想される今後の利益が返済予定額を上回っていなければなりません。

設立後の登記と定款変更

登記や定款については、会社を設立した後はすっかり忘れていることもあります。詳しくは「設立後の登記」をご覧ください。

今後の方向性(資金調達やメンバーなど)

「資本金を増やす(増資をする)べきか?」「役員の顔ぶれを見直すべきか?」など、今後の方向性によって会社の体制が大きく変わってきます。