はじめに


2020/4/2

【ご注意】このサイトの説明は株式会社を前提としております。

所有と経営の分離

会社の基本的構造は「所有と経営の分離」です。これから会社を設立する人、しかも、小さな会社を設立する人に向かってこんな話をする専門家(公認会計士、税理士、司法書士など)はいないと思います。しかし、会社という仕組みや制度を語るにあたって忘れてはならないことです。所有と経営の分離が会社の原型なのです。会社には様々な規模や形態のものがありますが、どれもがこの原型をカスタマイズしたものなのです。

所有と経営の分離とは、会社に資金を提供する者(出資者=株主)と会社を経営する者(役員=取締役)が別々であるということです。これは上場企業の構造を考えてみれば容易にご理解いただけると思います。上場企業の経営者(社長や専務などの役員)の中には、その会社の株式を全く保有していない者もいます。保有しているとしてもわずかの株数です。上場企業の大株主の中にその会社の経営者が含まれているのはごく例外です。

中小零細企業においては所有と経営の分離には程遠い状態で、経営者は株主でしかも大部分の出資をしていることが通常です。中小零細企業において所有と経営の分離がなされていない理由は、「銀行の存在(企業の銀行借入れへの過渡の依存)」「出資者と経営者の会社制度に対する理解不足」「会社の経営基盤の弱さ(会社が継続することの困難さ)」「経営や財務の不透明さ」などが考えられます。中小零細企業における所有と経営の分離は並大抵のことではできませんが、以下のことを心がけていれば出資者が現れ、大きく飛躍するチャンスをつかむことも可能です。所有と経営の分離は「理想論」とあきらめてはいけません。

◆会社制度に対する理解を深める(法令を遵守する)
◆明確かつ客観的な事業計画を立てる
◆公私の区分
◆正確かつ明瞭な企業内容の公表(特に正確な決算報告が重要)
◆出資者への分配(配当)
◆出資者が投下資金を回収する(株式を譲渡する)方法を用意しておく

これから会社を設立する人の中には、「節税になりそうだから」とか「体裁がいいので」という人もいると思います。それは、それでよいとして、せっかくの機会ですので会社という制度の仕組みに対する理解を深めてください。将来それが必ず役に立ちます。

「会社はこういうときに活かせるのか!」ということが必ずあります。

出資(株主は会社の所有者)

出資とは団体に資金を提供することです。株式会社の出資者は株主と呼ばれます。株式会社は株主からの出資がなければ設立できません。株主は会社の所有者(オーナー)として会社の重要事項の決定権を持ちます。株式会社は株主からの出資により資金を集めなければ活動することができませんので、株主には絶大な権限があるのです。株主の出資した資金は会社の業績によって増減します。増加すれば配当を受けることができますが、減少すれば出資した資金が目減りします。だから、株主は会社の活動状況を監視していなければならないのです。

経営者と代表者(取締役と代表取締役)

株主から資金を集め、その資金を事業に投下し、株主に代わって会社を経営する立場の人を経営者といいます。取締役のことで、取締役は株主が選任します。複数の取締役がいる場合には、代表取締役が選任されその者が会社を代表します。

株主からの出資は返済不要?

「株主からの出資は返済不要なので安定的な資金となる」ということがいわれます。確かにそのとおりです。しかし、それは一定の業績を達成して株主に配当していることが前提です。業績が低迷し配当もできないような状態では、株主は経営者の責任を追及してきます。

株主から出資を受けた資金は、株主からもらったのではありません。株主から託された(預かった)資金であることを十分認識しなければなりません。

融資

融資も出資と同じく、会社の資金調達の手段であることに変わりはありません。出資との違いは、返済の時期が定められ、資金調達の対価である利息についてもその利率や支払いの時期があらかじめ明確に決められているということです。融資の返済や利率は確定した約束なのです。

自己資本と他人資本

株主からの出資を自己資本、金融機関などからの融資を他人資本といいます。この背後には、「会社は株主のもの」という考え方があります。会社の基本的構造は、株主が出資した資金を、株主が選任した経営者が事業のために投下し、利潤(利益)を生み出しそれを配当として株主に分配するというものです。このように考えれば、株主が出資した資金は会社のオーナーである株主の資金、「自分の資金=自己資本」ということになります。一方、金融機関などは会社の外部者ですので、外部者から調達した資金は「他人の資金=他人資本」ということになります。

資本金?資本?純資産?

会社という制度の理解の妨げとなるのが「資本」という言葉です。株主から出資を受けた資金という漠然とした理解はできます。しかし、「資本金相当額の資金がない?」「決算書の資本金は設立したときのまま?」など、考え出すと疑問が次々と湧いてきます。

●資本(一般用語)
一般用語の資本は事業を行うための資金(元手)という意味です。

●資本金(登記)
登記されている資本金は株主から出資を受けた資金です。

●資本金(決算書の貸借対照表)
決算書の貸借対照表に表示される資本金は登記されている資本金と同じ金額です。

●資本金と資産(現金預金)
資本金と資産は直結しません。設立当初、資本金は現金預金という資産ですが、会社が活動を開始するとこの関係が成り立たなくなります。出資された現金預金を使うからです。

●純資産
純資産とは決算書の貸借対照表において資産から負債を差し引いて計算されます。この純資産と資本金は一致しませんが、資本金よりも多い場合は株主から出資された資金が増えているということです。

株式と株券

株というのも訳のわからない言葉です。「出資単位の呼び方」という程度の理解でよいと思います。1株あたりで出資額が決まり、出資総額が多い株主ほど株数も多くなります。そして、株主の決議は人数ではなく株数で決まりますので、株数が多いほど権限も増します。株式に対しては株券を発行することができますが、現行の会社法では株券を発行しないのが原則となっており、株主であるかどうかは株主名簿の記載で明らかにします。

会社法という法律

会社に関する法律として、わが国には会社法があります。この法律では会社の設立や運営方法について定められており、会社を規制し、会社の様々なトラブルを解決する手段となるのみならず、会社経営の指針が多数示されています。会社経営をする人であれば必ず知っておく必要がある法律といえます。

会社設立から引退まで

会社を設立してから引退するまでのことを考えてみると、必ず「会社という制度」を意識しなければならない局面に出くわします。

●後継者を育成する(権限の委譲)
設立から事業が起動に乗るまでは無我夢中で、「会社何たるか」を考える余裕などありませが、事業が軌道に乗り、次の展開を考えるようになると後継者(安心して仕事を任せられる者)の育成を考えなければなりません。後継者というからには一般の従業員とは違います。まずは、役員(取締役)でなければなりません。また、株も持たせなければなりません。

●会社を譲る(投下資金の回収)
後継者が育ったならば、いずれは会社を譲ることを考えなければなりません。役員(取締役)は簡単に退任できます。問題は保有している株式です。上場企業ならば株式市場で売却するかそのまま配当を目的に保有してもかまいませんが、非上場企業はそうはいきません。誰かに買い取ってもらわなければ会社に投下した資金を回収できません。また、投下資金の増殖部分も受け取らなければなりません。

●会社を消滅される(一代限りで廃業する)
後継者にバトンタッチして会社を継続するのではなく、「一代限り」というのもそれはそれで良いことだと思います。会社を消滅させるには、設立したときと同じように法務局で手続をしなければなりません。この手続を清算といいます。また、清算の前提として会社の財産を全部換金して負債は全額返済して、残った資金を株主に分配しなければなりません。

代表者の急死

大変縁起の悪いことですが、代表者(株主兼代表取締役)が急死した場合のことも考えておかなければなりません。

まず知っておかなければならないのは、代表者が死亡しても直ちに会社は消滅しないということです。代表者の存在が大きい(代表者が何もかもを動かしている)中小零細企業では営業そのものは停止になると思います。従業員も会社を去ってゆきます。しかし、会社の法的存在は残り法務局に登記されたままで、預金、車両などの資産、金融機関からの借入金は会社名義のままです。

代表者の遺族(遺産を引き継ぐ相続人)にすれば、会社の全株式を保有している代表者が死亡すれば、直ちに会社の預金などの財産も遺族のものになると考えるかもしれません。しかし、そのためには遺族を次の代表者に選任して登記するという手続を経なければなりません。このことはあらかじめ家族や近親者に伝えておき、不時の際の具体的手順を明らかにしておかなければなりません。

「会社で契約している生命保険」についても注意が必要です。被保険者は代表者でも死亡保険金の受取人は会社ですので、死亡保険金を遺族が直接受け取ることはできません。会社が受け取り、会社が遺族に退職金として支給する、あるいは株主に対して分配するという手順になります。