公認会計士・税理士、築山哲が語る起業雑感・・・



起業するには

会社設立ワンポイントアドバイス


会社の経理と比べれば楽?
個人事業者の経理





1.起業の動機とパターン

(1)のれん分け 
起業する人の大半が、元サラリーマンでしょう。運良く元勤務先から「のれん分け」をしてもらい、起業後も元勤務先と
取引してもらえるのはある意味で理想的です。取引先も確保されており資金的にも安定するからです。しかし、反面、い
つまでも元勤務先の「支配下」に置かれることもあります。さらに最悪の場合、元勤務先の「調整弁」にされてしまうこと
さえあります。元勤務先 にすれば、「労働者」という弱者保護の「呪縛」から開放されるからです。また、元勤務先への 
「甘え」が残ってしまい他の取引先を獲得しようという意欲が湧いてこないということもあります。

(2)裸一貫 
ある意味で、起業の自然な姿です。「独立独歩」、「一国一城」が起業家の理想だからです。しかし、起業後の安定性が
ありません。挫折するケースが多く、多額の借金を背負い込み人生を棒に振ってしまうことさえあります。

いずれの方法がよいとは一概にはいえません。ただひとついえることは、企業の原点は「社会貢献」で、「社会貢献」な
くして企業は存続できないということです。これは、決してボランティア(無対価)という意味ではありません。社会が要求
する、いまだこの世に存在しない商品やサービスを提供し人々に満足を与え、それに対する正当な対価をもらう。これ
を満たせる方法でしたら、(1)と(2)にこだわる必要はないのではないのでしょうか。

【得意先の件数】
これも重要なことであると思います。「特定の得意先に頼るな!」とのアドバイスをする先輩は多いと思います。その得
意先が倒産すれば共倒れするからです。しかし、得意先を分散していても全体的な景気後退や販売している商品の需
要減退の影響は受けてしまいます。また、得意先の件数が多いと得意先1件を維持するためのコスト(あいさつ回りの
時間など)も相当なものになります。
大切なことは得意先の体質や将来性、そして何よりも経営者の能力や人間性だと思います。仕入先や外注先を単なる
便利屋と考えるのではなく事業発展のパートナーと考えているのであれば、その得意先と運命を共にしてもよいのでは
ないのでしょうか。実際、成功した企業の中には特定少数の得意先に絞り込んだことが成功の要因となったケースもあ
ります。事業には選択と集中という「賭け」が伴うものなのです。

2.資金 (自己資金と借入金)

事務所の保証金、設備資金、当面の運転資金(仕入や人件費などの諸経費を支払うための資金)が必要となります。
資金がない限り、どんなに「アイデア」や「志」があろうとも起業はできません。しかし、資金調達には様々な方法があり
ます。自己資金(起業家の貯金)だけでなく、出資者を募ったり、金融機関から融資を受けたりすることができます。

出資を募るには会社形態が望まれます。出資のルールが法的に定められており、明瞭な記録を残しやすいからです。
また、成果分配や出資回収のルールも確立されています。融資を受けるには、保証人や担保の提供が必要となること
がほとんどです。しかし、一部には無担保無保証の融資もあります。

資金には、返済不要な「自己資金」と、返済しなければならない「借入金」があります。この区分は大変重要です。自己
資金が多ければ多いほど事業が安定するのは当然です。借入金が多い場合は、その返済予定を事業計画に織り込
んでおかなければなりません。

【取引先と相互に保証人になり合う】
保証人が代表者一人では足りない場合があります。そのような場合には、密接不可分な関係(一方が製造で一方が販
売などの関係)にある取引先の代表者と相互に保証人になり合うという方法があります。「保証人にだけは・・・」という
考えの人も多いと思いますが、この程度は事業を行う上での当然のリスクではないでしょうか。

3.ノーコスト経営

「SOHO」、「在宅」という言葉があります。事業においては、無駄なコストはゼロにしなければなりません。しかし、必要
なコストまで惜しんでしまうと、やがては世の中の流れから取り残されてしまいます。ノーコスト経営の最大の欠点は孤
立してしまうということです。事業に関連するあらゆる人は金銭的な対価を目的に行動しており、金銭的な対価を支払う
つもりのない者とは付き合わないからです。そうなれば、事業に必要な物やノウハウが手に入らなくなってしまいます。
ですから、失敗怖さに出費を惜しむのは禁物です。

【自宅兼事務所の良し悪し】
家賃が不要であるのは当然として、通勤時間がないことから仕事に没頭できるというメリットもあります。しかし、取引先
から軽く見られます(設備を持たない労働者という扱いにされる)。また、得意先を郊外の住宅に招くことは失礼です。
早急に自宅と事務所は分けなければなりません。

4.ノウハウ

元勤務先と同業種の事業を起こす場合は、新たなノウハウは必要ないでしょう。元勤務先と異業種の場合は、新たにノ
ウハウを会得しなければなりません。無対価でノウハウを伝授してくれる人が現れるのが理想ですが、現実はそんなに
甘くはありません。各種研修会への参加、FC契約などを検討しなければなりません。 

5.経営形態 (個人事業者と会社)

「個人事業者」、「会社」の二者択一となります。やはり、公私のけじめがつき対外的にも信用される会社形態がよいで
しょう。また、「単独経営」か「共同経営」かの選択も必要となります。単独経営とは、出資も経営も起業家一人(あるい
は家族を加えて)で行う方法です。共同経営とは、複数の出資者と起業家で出資と経営を行います。 

6.所有と経営の分離

意外と忘れがちなのですが、事業の本質は「所有と経営の分離」であるということです。事業は、出資はするけれども経
営は誰かに任せる「出資者」と、出資はしないけれども経営に専念する「経営者」の両者が別個に存在しなければなり
ません。そうでないと、事業に必要な資金が集まっても経営ができない、経営能力があっても資金が集まらないことにな
ります。

残念ながら、先発企業の多くがこの方法に無知であり、出資者兼経営者という「お山の大将」に甘んじています 。これ
からの起業家は、「所有と経営の分離」を前提にしなければなりません。最近のネットベンチャー、古くは京セラなど、
「所有と経営の分離」という事業の本質の上に発展を遂げています。

7.会社制度の積極活用

日本の事業家は会社を取り巻く諸制度に無知すぎます。 

わが国の非公開会社(株式公開していない会社)の多くは、高度成長期にいわゆる節税対策のために設立されまし
た。会社組織にすれば事業主の取り分が「給与所得」となり個人事業主に比べて「給与所得控除」相当金額が節税と
なること、会社の利益に課税される法人税率は一定であること(個人の所得税は累進税率)が節税できる理由です。ま
た、2000年以降は興味本位に設立したいわゆる「1円資本金会社」も目立ちます。

会社制度は、資本主義社会発展の活力源です。不特定多数の出資者と経営のプロを結びつけ、会社の活動を通して
新たな需要や雇用などの様々な産物を生み出していきます。資本主義社会においては会社制度が法的に確立されて
おり、今後もその形態は発展を遂げていくことでしょう。この会社制度を「節税目的」のみに活用するのは、「宝の持ち
腐れ」と考えなければなりません。 

これからの時代は、以下に掲げることを会社運営の中に取り入れていく必要があるのではないでしょうか。 

●会社運営に十分な自己資本を集めること(返済不要な自己資金で安定した経営が可能)
●会社運営にとって有意義な者を取締役とする(全取締役の英知の結集)
●株主への配当は必須要件と考える(株主への成果配分)
●株主数はできる限り多くする(役員・従業員の会社運営への参加)
●株式譲渡の方法を確保しておく(所有と経営の分離=規模拡大=経営安定の前提条件)
●エンジェルに頼り過ぎない(営利を追求する会社の目的と矛盾する)
●公私のけじめをつける(家内工業やワンマン経営に資金は集まらない)
●会社に永続の保障などないことを認識する(倒産が予想されるときのタイムリーな善後策)
●正確な決算報告(「嘘をつく会社」や「実態のつかめない会社」に資金は集まらない)
●将来ビジョンを持つ(株主確保の前提)
●株式公開を視野に入れる(株式公開基準の緩和)
●外部ブレーンの活用(会社運営の専門性) 

以上を実行することは容易ではありません。しかし、よほど経営者の個人的才覚がずば抜けている場合はともかくとし
て、以上の認識なくして事業の発展はありえないとお考えください。 

8.信用の獲得

心配無用です。そもそも、世の中に無制限に信用できる人や会社など存在しないからです。これは、昨今の官庁や一
流企業の不祥事で誰もが知ることです。見る人は見てくれています。世の中、単なる創業年数だけで企業の評価をす
る人ばかりではありません。信用とは、実績や経歴ではなく、その場その場の行動ではないでしょうか。 

9.企業を取り巻く法律 (法令遵守、コンプライアンス)

起業家にとって頭痛の種でしょう。税金、社会保険、雇用保険など、不得手としている起業家が大半でしょう。しかし、
心配は無用です。外部ブレーン(公認会計士、弁護士、経営コンサルタントなど)に任せればよいのです。 

10.ビジネスモデル

人のまねだけでは事業は成功しません。しかし、先人や専門家の考えには学ぶべきものが多くあります。成功事例を
徹底研究し、ビジネスモデルを作らなければなりません。次に、そのビジネスモデルを事業計画として具体化しなけれ
ばなりません。事業計画は、出資者の募集、取引先の説得、共同経営者の勧誘、従業員の募集の際に役立ちます。

11.事業計画

事業は「収支(現金の出入り)」がプラスでないと成り立ちません。マイナスであっても手持ち資金が潤沢にあれば問題
はないのですが、無尽蔵に手持ち資金があることなどありえないでしょう。事業計画は、いかにして収支をプラスにする
かの計画でなければなりません。収支とは、収入(売上代金)−支出(仕入代金+諸経費+借入金返済)です。

●売上代金 
売上代金は「単価×数量」で計算されます。事業計画の段階においては、単価・数量とも不確定要素が含まれます。市
場調査、同業他社事例の検討などから、可能な限り客観的に見積もらなければなりません。また、複数商品を扱う場
合は商品構成も考慮しなければなりません。

●仕入代金 
仕入代金は、売上代金と対応関係にあります。しかし、「売れるだけ仕入れる」あるいは「仕入れただけ売れる」は理想
で、通常は「仕入先行(在庫の保有)」となります。在庫は売れるまで現金とはなりません。

●諸経費 
事務所家賃、従業員給与、車両維持費、交際費、交通費など、案外諸経費は馬鹿になりません。諸経費で気をつけな
ければならないのは、予期せぬ出費です。その典型が、租税公課(税金や社会労働保険料など)です。

●借入金返済 
これが大変です。先発企業の多くが、借入金の返済に四苦八苦しています。借入金による投資が収入につながってい
る場合(仕入れた商品がヒットした、店舗改装が奏効したなど)はよいのですが、空振りに終わった場合は「借金だけが
残った」状態で収入を生まない支出が多額に生じます。

【事業計画は客観的に】 
起業する人にとって大切なのは、協力者(出資者や金融機関)を「だます能力」ではなく、「説得する能力」です。 

【どれだけ稼ぐ必要があるのか?】
案外これを把握できていない人がいます。まずは、描いている計画に必要な「固定費」(売上の有無にかかわらず発生
する費用)を把握し、どれだけの売上(粗利)が必要かを計算してみることです。

【事業計画の作成期間】
最低でも向こう三年間が必要となります。また、当初1年については「月単位」の事業計画が必要となります。また、事
業計画は諸要素に応じて順次変更する必要があります。


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