個人事業者の勘定科目


2020/1/8

このサイトの説明は会社を前提としておりますので、このページで個人事業者(所得税の事業所得)の勘定科目について説明しておきます。同じく個人の不動産所得の勘定科目はこちらをご覧ください。

会社と個人で算出する利益が違う

会社と個人事業者では、算出する利益、つまり課税対象となる所得の計算方法が大きく異なります。

【会社の場合】
利益=売上−仕入−人件費と諸経費(人件費に役員報酬=経営者取り分含む)
利益には「法人税」が、役員報酬には「所得税(役員報酬からの源泉徴収)」が課税されます。

【個人事業者の場合】
利益=売上−仕入−人件費と諸経費(人件費に事業主の取り分含まず)
利益=事業所得に「所得税(確定申告が必要)」が課税されます。
個人事業者が事業主の取り分を引き出した場合、「事業主貸」という「資産勘定」で処理し費用(必要経費)に含めません。

個人事業者特有の勘定科目

会社と個人事業者では算出する利益の計算方法が異なることから、個人事業者には特有の勘定科目があります。

◆事業主貸(じょうぬしかし)
個人事業者が事業主としての取り分(会社でいう役員報酬)を引き出した場合、「事業主貸」いう「資産勘定」で処理し費用に含めません。この勘定科目は、事業者が事業とは無関係な費用を引き出した場合も使用します。

◆事業主借(じぎょうぬしかり)
個人事業者が事業外の資金から事業用に資金を提供した場合は、「事業主借」という「負債勘定」で処理します。

◆元入金(もといれきん)
会社のように事業の元手を資本金として登記をするという制度がありません。元手は「元入金」という勘定科目で処理され「自由に変動」させることができます。

◆専従者給与
親族従業員への給与は「専従者給与」として処理します。

生命・地震保険料(所得控除)

これは所得控除で、事業所得以外のあらゆる所得(サラリーマンや年金生活者)でも認められるので、帳簿に記載する必要がありません。事業用の預金口座からの振替えになっている場合は、必要経費とはしないで「事業主貸」としなければなりません。なお、国民健康保険料・国民年金保険料、医療費も所得控除ですので生命・地震保険料と同じように処理しなければなりません。

青色申告決算書と収支内訳書

個人事業者の場合も税務申告(所得税の確定申告)に際して決算書を提出しなければなりませんが、会社の決算書のように勘定科目の名称について裁量の余地はほとんどなく(会社の場合は独自の勘定科目を新設することもある)、税務署が提供している青色申告決算書(青色申告を選択している場合)あるいは収支内訳書(白色申告の場合)という所定の様式を用いなければなりません(勘定科目を若干追加できる)。

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≪個人事業者の必要経費≫

以下において、個人事業者(事業所得)の青色申告決算書と収支内訳書所定の「必要経費」に関する勘定科目について説明しておきます。

租税公課(必要経費になる税金は限定される)

個人事業者が納付する税金のことですが、必要経費になるものは限定されています。

確定申告で納付する「所得税」(国税)は必要経費には「なりません」。確定申告から数か月遅れて納付する「住民税」(地方税=都道府県と市町村)も必要経費には「なりません」。しかし、「事業税」(都道府県)は必要経費に「なります」。

仕入代金や諸経費を支払う際に業者に上乗せして支払う消費税は租税公課ではありません。税抜処理をしている場合には仮払消費税という資産勘定、税込処理をしている場合にはそれぞれの必要経費の勘定科目に含めることになります(本体+消費税で処理する)。「税込処理のほうが消費税の分だけ必要経費が増えるので有利?」と思えるかもしれません。しかし、税込処理の場合には収入(売上)も税込みになります。

税務署に納付した消費税は税込処理の場合には租税公課として必要経費となります。税込処理の場合には、「受け取った消費税(収入に含まれている)=仕入れなどの際に支払った消費税(必要経費に含まれている)+税務署に納付した消費税(必要経費)」となり、結果として所得の計算には影響しません。税抜処理の場合には、受け取った消費税は仮受消費税という負債勘定、支払った消費税は仮払消費税という資産勘定に計上されるので損益計算(事業所得の計算)には一切影響しません(仮受消費税−仮払消費税を未払消費税とし納付の際に消滅させます)。なお、消費税の免税事業者は税込処理しか選択できません。

荷造運賃

文字通り運賃のことです。宅配便の業者などに運送を依頼したときの代金です。商品や材料を仕入れた際も運賃は必要ですが、それらは仕入に要した費用として仕入高に含めることが通常です。荷造運賃となるのは顧客などに運送した場合の運賃です。ネットショップや通販をしている場合には、この荷造運賃の金額は相当多額になります。

「荷造」に関する費用、梱包材料の代金も無視できませんので、これも荷造運賃に含めます。ただし、「消耗品費」でも間違いではありません。

店舗や事務所の引越し費用(荷物の運搬費用)も荷造運賃に含めます。

水道光熱費

電気、水道、ガスの料金です。賃貸ビルなどの場合には家主から請求された金額を計上します。自宅兼事務所で事業をしている場合には、事業用部分と私用部分に区分しなければなりません。この区分は面積比で行うことが一般的です。

旅費交通費(事業主の出張手当=日当は?)

交通機関の運賃や有料道路の通行料です。事業主や従業員の通勤手当(通勤定期代)もこれに含まれます。従業員がいれば、その出張旅費(交通機関の運賃、宿泊費)や出張手当(日当)もこれに含まれますが、事業主の「出張手当」は必要経費とはなりません。【注】

ガソリン代もこの科目に含めることがありますが、ガソリン代は消耗品費で処理していることもあります。

【注】会社では代表者(代表取締役、社長)の出張手当(日当)を経費にできます。会社の場合、会社と代表者は法的に別個の存在であるので会社から代表者に給与(役員報酬)や出張手当を支払いますが、個人事業者にはこのような考え方は成り立ちません。個人事業者が本人に給与や出張手当を支払うこと自体がありえないということです。

通信費

電話代と郵送代(切手など)が典型ですが、インターネット関連費用(プロバイダーやレンタルサーバーなどに関する費用)も通信費で処理していることが多いです。

広告宣伝費

商品やサービスの宣伝に関する費用です。従業員の採用広告費用もこれになります。昔ながらのチラシ、DM、新聞や雑誌の広告、テレビやラジオのCM、看板、貼り紙は当然として、昨今では主流な広告媒体といえるインターネットを利用したホームページやメールマガジンなどに関する費用も広告宣伝費として必要経費にできます。

接待交際費

平たくいえば、顧客のご機嫌を取るための費用です。飲食代は当然として、手土産や贈答、慶弔金も接待交際費になります。ゴルフコンペなど接客のためにするイベントに関する費用もこれです。

損害保険料

店舗や事務所の建物・備品、商品、車両など事業用の資産を対象としている損害保険(火災、天災、盗難などを保障)の保険料です。

修繕費

建物、機械、車両、備品の維持、修繕、管理に要する費用です。

消耗品費

一度使えば無くなってしまう物に関する費用です。文具(糊やセロテープなど)、封筒、梱包材料などが典型例です。パソコンやソフトウェアの購入代金も10万円未満であればこれで処理していることが多いです。

減価償却費

消耗品費が一度使ってしまえば無くなってしまうのに対して、減価償却費は1年を超えて使える物に関する費用です。建物、車両、備品などがその典型で、何年かに分けて費用としなければなりませんが、この計算を減価償却といい、その方法は税法で定められています。

消耗品費でも長年使える物があります。ですから、減価償却するのは数年使える物のうち一定金額以上の物(現在の税法では10万円以上)ということです。

福利厚生費

従業員のレクリエーション(旅行、忘年会、新年会など)、残業時の夜食代、慶弔金、社会・労働保険料(事業主負担部分)です。

給料賃金

従業員(生計を一にする親族は除く)に支払った給料と賞与です。手取りではなく総額です(源泉所得税や社会保険料などを差し引く前の金額)。諸手当を含みますが通勤手当は旅費交通費とします。

外注工賃

業者に依頼する事務、清掃、加工など関する費用です。今風の言葉でいえばアウトソーシングに関する費用です。

利子割引料

特に説明は不要かもしれません。ただし、元金と同時に利息を支払う場合には両者を区分し、利息部分のみを必要経費にしなければなりません。持ち家を自宅兼事務所にしており全体の購入代金について住宅ローンを組んでいる場合には私用部分との区分が必要です。

地代家賃

店舗、事務所、倉庫、駐車場の賃料です。一時借りの駐車場は旅費交通費で処理することが一般的です。会議室や展示会場などを一時借りした場合の料金もこれには含めません(雑費?)。

貸倒金

入金されていない分も売上に含めなければならない場合もありますが、その分が入金されなかった場合にはこの勘定科目で必要経費として処理することができます。ただし、「貸倒れ」の要件は厳格に定められています。単なる「払い渋り」は貸倒れではありません。

雑費
上記のいずれにも該当しないものです。この科目の多様は避けてください。なぜならば、意味不明であるからです。