自宅兼事業所の減価償却と住宅ローンの処理

 

 

自己所有の(賃貸ではない)自宅を事業所(事務所、店舗、工場など)にしている場合、土地、建物、借入金(住宅ローンがある場合)という貸借対照表の勘定科目が生じます。また、青色申告決算書あるいは収支内訳書の「減価償却の計算」にも関連してきますので思いのほか複雑です。

 

1 自宅建物の計上(減価償却の基礎となる金額の計算)は「総額」でするのか?

 

≪借方≫土地+建物≪貸方≫現金あるいは預金

 

ここでの「総額」とは自宅兼事業所全体の購入額のことです。一般的には総額で計上していることが多いようです(特に複式簿記で記帳している場合)。というのは、青色申告決算書あるいは収支内訳書の「減価償却の計算」は総額で計算して、それから「事業専用割合」を乗じるという方式になっているからです。(土地についても総額で計上しますが、土地は減価償却の対象ではありません。)

 

青色申告決算書あるいは収支内訳書の「減価償却の計算」の「取得価額」の総額に「事業専用割合」を乗じて記入しているケースもあるようですが、これですと「事業専用割合」が100%になってしまいます。自宅兼事業所であるのに「事業専用割合100%」というのはおかしいです。(もっとも、減価償却の計算結果は総額の場合と同じです。)

 

2 減価償却費の仕訳(総額で計上しているとして)

 

≪借方≫減価償却費+事業主貸≪貸方≫建物

 

減価償却費は青色申告決算書あるいは収支内訳書の「減価償却の計算」の「本年分の償却費合計」に「事業専用割合」を乗じた「本年分の必要経費算入額」です。この仕訳の結果、貸借対照表の建物の金額は「未償却残高」に一致します。

 

3 住宅ローンに関する仕訳

 

事業用部分に対する住宅ローンの金利は事業所得の必要経費として処理することができます。なお、事業用部分に対する金利の計算は住宅の総面積(建物部分でよいでしょう)に対する事業用に使用している面積の割合によるのが一般的です。

 

(1)返済を事業とは無関係の預金口座でしている場合の仕訳

 

≪借方≫支払利息(事業用部分のみ)≪貸方≫事業主借

 

住宅ローンを返済する都度、この仕訳をすることになります。借入金という勘定科目は生じません。支払利息の金額は利息総額に対して事業に使用している割合を乗じた額です。

 

(2)住宅ローンを事業用の預金口座からしている場合の仕訳

 

【住宅を購入したとき】

≪借方≫土地+建物≪貸方≫借入金+現金あるいは預金

 

【毎月の返済】

≪借方≫借入金+支払利息(事業用部分)+事業主貸(住宅部分)≪貸方≫預金

 

借入金を全額計上しているので、自宅部分の金利は事業主貸として処理し、損益に影響しないようにしなければなりません。(「支払利息+事業主貸」が利息総額です。)

 

(3)住宅ローンの返済は事業とは無関係の預金口座でしているけれども借入金勘定を発生させる場合の仕訳

 

【住宅を購入したとき】

≪借方≫土地+建物≪貸方≫借入金

 

【毎月の返済】

≪借方≫借入金+支払利息(事業用部分)+事業主貸(住宅部分)≪貸方≫事業主借

 

自宅部分の金利は事業主貸として処理し、損益に影響しないようにしなければなりません。借入金の返済は事業主の個人の預金口座からしていますので、貸方は「事業主借」で処理します。

 

(4)住宅の名義が家族と共有になっている場合?

 

利息の計算は上記でよいとして(生計を一にする親族の払った費用は必要経費にできる)、家族(配偶者など)が負担すべきローンを事業主が返済している場合には贈与税の問題が生じます。さて、仕訳はどのようになるのでしょうかね?

  

4 自宅を事業用に転用した場合の仕訳

 

自宅を事業用に転用するとは、個人事業者が事業とは無関係に使用していた自宅を事業用に利用するようになることをいいます。脱サラした人が、サラリーマン時代からの自宅を事業に利用するようになるのがその典型です。

 

(1)転用時の仕訳

 

≪借方≫建物≪貸方≫事業主借

 

金額をいくらにするかについては下記の国税庁サイトをご覧ください。

 

「中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費」

http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2108.htm

 

(2)ローンの処理

 

転用した資産をローンで購入している場合には下記の仕訳になります。建物と借入金の金額は一致しないでしょうから、事業主貸か事業主借で調整するしかありません。

 

≪借方≫建物(+事業主貸)≪貸方≫借入金(+事業主借)

 

(3)減価償却費の計算

  

≪借方≫減価償却費+事業主貸≪貸方≫建物

 

減価償却費は「事業専用割合」部分に限定されます。

  

(4)当初の買値を証明する資料(「中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却費」の計算資料)

 

契約書、請求書、領収書など、当初から事業で使用する場合と同じです。これらが残っていなければ転用資産の減価償却の計算ができませんので、転用しても必要経費にはできないということです。 

 

 

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