事業用預金口座

 

 

「事業用預金口座は開設しなければならないのか?」「預金名義に屋号は必要なのか?」「事業用預金口座に事業と無関連の入出金があった場合の処理は?」など、事業用預金口座について悩む人が多いです。現在では、銀行預金口座を利用しない事業などありえませんので、事業用預金口座のない記帳など考えられません。また、預金口座には記録が明瞭に残りますので、これを利用すれば記帳を正確かつ効率的に行えます。

 

1 事業用預金口座とは?

 

明確な定義があるわけではありませんが、事業に関する預金取引が目的の預金口座のことです。口座名義に屋号が入っているかは問いません。売上代金を振り込んでもらう(あるいは現金集金した分をプールしておく)、仕入代金や諸経費を振り込む(あるいは預金残高を支払い原資にする)ための預金口座です。

 

事業用預金口座が複数の場合もあります。事業用預金口座が存在しない(どれが事業用か明確でない)場合もあるでしょう。

 

事業用預金口座は事業所得を算出するための帳簿の記帳対象にしなければなりません。会計ソフトの科目設定において、事業用預金口座の入出金と残高を把握するために、事業用預金口座についての総勘定元帳(預金出納帳、補助元帳)を設定しなければなりません。

 

2 事業用預金口座に事業とは無関係の入出金があった場合

 

このようなことは極力避けるべきですが、やむを得ず生じた場合には次のように処理します。

 

入金の場合には相手勘定科目を「事業主借」として収益(収入)に混入しないようにしなければなりません。出金の場合には「事業主貸」として費用(必要経費)に混入しないようにしなければなりません。

 

入出金の一部が事業に関連する場合にはその部分は事業主借あるいは事業主貸から除いておく必要があります。特に出金に関してはこのケースが多いと思います。自宅兼事業所の場合の家賃、光熱費、固定資産税などがその典型です。

 

3 事業用預金口座以外の預金口座で事業関連の入出金があった場合

 

これについても極力避けるべきですが、やむを得ず生じた場合には次のように処理します。

 

入金の場合(ただし、入金については100%事業用預金口座に入金するように努めてください)は、相手勘定科目(借方)を事業主貸として収益(収入)を計上します。出金の場合には、相手勘定科目(貸方)を事業主借として費用(必要経費)勘定科目を計上します。事業用預金口座以外の預金口座は記帳の対象ではありませんので、「預金」という勘定科目は登場しません。

 

4 この入出金は事業用預金口座ですべきか?

 

これについての自らのルールを設けてそれを守ることが非常に大事です。

 

◆売上代金

100%事業用預金口座にしてください。

◆仕入代金および事業に関する諸経費

100%事業用預金口座にしてください。

◆自宅兼事業所の場合の家賃、光熱費、固定資産税など

どちらでもよいと思います。好みの問題でしょう。ただし、記帳を他人(税理士や雇用している事務員など)に頼んでいる場合には事業用預金口座にしておくほうがよいです。事業用預金口座の通帳だけで作業が済むからです。

◆国保料と国民年金保険料の納付

事業用以外の預金口座でしてください。事業用預金口座で納付する場合には必要経費ではなく事業主貸です。これらは必要経費ではなく(事業所得の計算の対象ではない)所得控除だからです。

◆医療費

国保料と国民年金保険料の納付と同じです。

◆生命保険料

これも国保料と国民年金保険料の納付と同じです。

◆所得税と住民税の納付

どちらも必要経費にはなりません。しかし、事業関連の出金であることに違いはありません。ですから、事業用預金口座にしておきましょう。勘定科目は事業主貸です。なお、事業税、税務署に納付する消費税は税込経理の場合には必要経費(勘定科目は租税公課)になります。

 

5 事業用預金口座の残高が不足する場合

 

手持ちの事業用現金がない場合には事業主の事業以外の資金で補うしかありません。相手勘定科目は事業主借です。この場合の事業主借こそが、本当の意味の事業主借です。それ以外の事業主借は「帳尻合わせ」のために用いているにすぎません。

 

6 事業用預金口座から生活費を引き出す場合

 

事業主貸です!

この場合の事業主貸こそが、本当の意味の事業主貸です。それ以外の事業主貸は帳尻合わせのために用いているにすぎません。

 

7 クレジットカードの決済

 

このあたりになれば頭がパニック状態になる人が多いです。まずは、クレジットカードの個々の使用実績が事業用とそれ以外に明確に区分されている必要があります。

 

クレジットカードの代金の決済が事業用預金口座で行われている場合には、クレジットカードの決済合計を事業用と私的使用に区分けして、前者は個々の使用ごとに適切な費用(必要経費)勘定科目で処理し、後者は事業主貸とします。この方法は、クレジットカードが主に事業用に使用されている場合に向きます。

 

代金の決済が事業用預金以外の預金口座で行われている場合には、事業に関する部分のみを相手勘定科目を事業主借として適切な費用(必要経費)勘定科目で処理します。

 

8 事業用預金口座の新設、廃止、転用の処理

 

新設は、相手勘定科目(貸方)を「事業主借、現金、預金(すでにある事業用預金口座)」として処理します。廃止は、相手勘定科目(借方)を「事業主貸、現金、預金(すでにある事業用預金口座)」で処理します。転用、つまり今まで私用目的であった預金口座を事業用に転用する場合には、相手勘定科目(貸方)を「事業主借」として処理します。

 

9 私用預金口座の事業用預金口座への転用は避けるべき

 

事業用預金口座とは、個人事業者の事業に関する預金取引が目的の、事業専用の預金口座のことで、口座名義に屋号が入っているかは問いません。売上代金を振り込んでもらう(あるいは現金集金した分をプールしておく)、仕入代金や諸経費を振り込む(あるいは預金残高を支払い原資にする)ための預金口座です。事業用預金口座を開設するのは、事業に関する入出金を一括して管理することだけでなく、私生活に関する入出金の混入を防ぐことも大きな目的です。

 

事業用預金口座が「私生活の入出金だらけ」という個人事業者が非常に多いです。そのような事業者の共通点は、事業開始前からあった預金口座を事業用預金口座に転用しているということです。そうであれば、事情用預金口座に事業とは無関係な「住宅ローンの返済」「自宅の水道光熱費の引落し」「生命保険料の引落し」「金融商品(投資信託など)の積立」「健康保険料や国民年金保険料の引落し」「クレジットカードの決済」「子どもの学校の授業料の引落し」などが混入してしまいます。

 

▼私生活用と事業用の預金口座を「一本化」するほうが管理しやすい!

 

帳簿を付けない場合(どんぶり勘定!)にはそうかもしれません。しかし、帳簿を付ける場合には大変手間がかかります。事業とは無関係な出金は「事業主貸」、入金は「事業主借」で処理しなければならないからです。また、間違ってこれらを事業に関する必要経費や収入として処理してしまうリスクがあります(必要経費への混入には税務署も目を光らせていますよ!)。

 

▲事業用預金口座を新規に開設してください!

このような状況にある場合には、事業用預金口座を新規に開設してください。既存の預金口座の整理、つまり、事業とは無関係な入出金をほかの預金口座に移動させるのは手続に手間がかかるからです。

 

「生活費はどうやって引き出すのか(事業用預金口座にいつまでも貯めておくということか)!?」

この話をすると、必ずこの反論があります。生活費は当然引き出せます。生活費を引き出した場合には借方を「事業主貸」で処理し、必要経費に混入しないようにします。なお、生活費は毎月の特定の日に一定額を引き出すようにします。小口で引き出すと帳簿付けが面倒だからです。

 

 

★理想的な(?)事業用預金口座の増減と事業主貸・事業主借勘定の残高

 

事業用預金口座の設定と入出金が適切に行われ、事業主の生活費の引出しと事業主からの資金不足の補てんが適切に行われている場合には、「事業主貸」「事業主借」の両勘定科目とも大変リーズナブルな金額(説明しやすい金額)になります。

 

さて、あなたはいかがですか?

  

 

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