土地建物等の譲渡をした場合の所得税(1/4)

 

2014年10月19日現在

 

大阪市北区与力町1−5

築山公認会計士事務所

 

 

■目次■

 

1/4 譲渡とは?(土地建物等の譲渡所得の課税)→このページ

1 譲渡とは?

2 土地建物等の譲渡所得の課税方法

 

2/4 土地建物等の譲渡をした場合の課税上の特例と申告

3 特例

4 譲渡損失などが生じた場合の計算

5 申告と納税

 

3/4 税務署の着眼点(譲渡の事実を把握する方法)

 

4/4 どこへ相談すればよいか?

 

★所得税の確定申告そのものについては「所得税確定申告情報」をご覧ください。

 

 

所得税法では、所得の生じ方によって課税の対象となる所得を次の10種類に区分しています。所得税法がこのように所得を区分しているのは、所得の種類によって所得の性質が異なるとともに担税力に差があるため、所得の区分に応じた課税方法をしなければならないからです。

 

1 利子所得

2 配当所得

3 不動産所得

4 事業所得

5 給与所得

6 退職所得

7 山林所得

8 譲渡所得

9 一時所得

10 雑所得

 

土地建物等(借地権、耕作権など土地の上に存する権利を含む)の譲渡は「8譲渡所得」に属します。譲渡所得とは、資産の譲渡による所得です。資産とは取引の対象となる経済的価値のあるもので当然土地や建物も含まれます。所得税はすべての所得を総合して(合算して)課税することが基本ですが、土地建物等の譲渡所得については下記の理由から他の所得とは総合せずに分離課税としています。

 

一般に譲渡所得は、長期間にわたって生じてきたキャピタルゲインが一定時点に(特定の年度に)偏って多額に実現しますので、他の所得とそのまま総合してしまうと高い累進税率が適用されることになってしまいます。そこで、譲渡所得については何らかの平準化措置(累進税率の緩和)が施されています。総合課税の対象となる譲渡所得については保有期間を5年で区切って、5年を超えるものについてはその2分の1のみを課税の対象としています。分離課税とされる土地建物等の譲渡所得についてもこのような税負担の軽減措置が施されていますが、それに加え、土地を流動化させるための税率などの優遇、投機的な取引による地価高騰を抑制するための重課などの政策的な措置が施されていることもあります。

 

 

1 譲渡とは?

 

譲渡には売買をはじめとする以下の形態があります。譲渡とは、有償・無償を問わず所有権その他の権利の移転を含む大変広い概念です。つまり、譲渡所得とは資産が所有者の手元を離れるときに生じる所得であるのです。

 

●売買

●資産の交換

●収用

●公売

●競売

●法人に対する現物出資

●代物弁済

●財産分与

●贈与(法人に対するもの)

●相続(限定承認に係るものに限る)

●遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る)

●借地権や地役権を設定し権利金などを受け取ったとき

 

《みなし譲渡(未実現のキャピタルゲインに対する課税)》

法人に対して贈与または遺贈した場合には贈与または遺贈した者に、相続または包括遺贈に際して限定承認がなされた場合には被相続人または遺贈者に、時価による譲渡があったと「みなされます」。さらに、法人に対して著しく低い価額(時価の2分の1)で資産の移転があった場合にも時価による譲渡があったと「みなされます」。これは、「未実現のキャピタルゲインに対する課税」(いつまでも課税の繰延べはできない)であり、かつてはこの「みなし譲渡」の範囲はもっと広く定められていました。収入も伴わないことから大変理解しづらいかもしれませんが、法律ですので従うしかありません。

懇意にしている会社などの法人への寄付や低額の譲渡、相続時の限定承認(相続財産内での被相続人の債務を負担すること)は要注意であるということです。

 

《譲渡による所得でも譲渡所得とならない(他の種類の所得となる)場合の例》

●事業所得者が棚卸資産(商品、製品など)を譲渡した場合→事業所得

●不動産所得、山林所得、雑所得を生ずる業務を行っている者が棚卸資産に準ずる資産を譲渡した場合→雑所得

●使用可能期間が1年未満の減価償却資産、取得価額が10万円未満の減価償却資産、取得価額が20万円未満の減価償却資産で「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたものを譲渡した場合→事業所得または雑所得

●山林を伐採して譲渡した場合または立木のまま譲渡した場合→山林所得(山林取得から5年以内に伐採して譲渡したり立木のまま譲渡した場合は事業所得または雑所得)

●上記の資産以外の資産を相当の期間にわたり継続的に譲渡している場合→事業所得または雑所得

 

《譲渡による所得であっても課税されない場合の例》

●生活に通常必要な家庭用動産(家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの)の譲渡による所得

●資力喪失の場合の強制換価手続(滞納処分や強制執行、担保権の実行としての競売、破産手続など)による資産の譲渡でその譲渡代金の全部が債務の弁済に充てられた場合の所得

●国や地方公共団体、公益法人に寄付し国税庁長官の承認を受けた場合の所得

●相続税を納税するために財産を物納した(国に譲渡した)場合の所得(物納とは本来の金銭による納付に代えて相続によって取得した財産で納付することをいいます)

●譲渡担保として資産を移転した場合(形式的な移転に過ぎす引き続き債務者=譲渡した者が使用収益するからです)→譲渡とはなりません。

●個人に対して資産を贈与した場合→贈与税が課税されます。

 

 

2 土地建物等の譲渡所得の課税方法

 

土地建物等の譲渡所得については他の所得(総合課税)と区分して計算します(分離課税)。

 

(1)長期譲渡(譲渡のあった年の1月1日において所有期間が5年を超える土地建物等を譲渡した場合)

長期譲渡所得の金額=資産の譲渡収入金額−(取得費+譲渡費用)−各種特例よる特別控除

税率は上記所得の15%(このほかに住民税5%がかかります)です。

 

(2)短期譲渡(譲渡のあった年の1月1日において所有期間が5年以下の土地建物等を譲渡した場合)

短期譲渡所得の金額=資産の譲渡収入金額−(取得費+譲渡費用)−各種特例よる特別控除

税率は上記所得の30%(このほかに住民税9%がかかります)です。

 

《資産を取得した日(長期の譲渡か短期の譲渡かの区分の基準)》

●他から購入した資産

原則として引渡しを受けた日となりますが、売買契約などの効力が発生した日とすることもできます。

●自分で建設、築造、製作した資産

その建設などが完了した日となります。

●他に請け負わせて建設した資産

資産の引渡しを受けた日となります。

●割賦販売による資産

その資産の引渡しを受けた日となります。

●相続、遺贈、贈与により取得した資産

相続、遺贈、贈与があった日ではなく、被相続人、遺贈者、贈与者がその資産を取得した日となります。つまり、相続人などが引き続き所有していたこととなります。ただし、被相続人などに相続や贈与の際に譲渡所得に対して課税されている場合には、相続、遺贈、贈与があった日となります(上記「1譲渡とは」の《みなし譲渡(未実現のキャピタルゲインに対する課税)》参照)。

●交換、買換えなどにより取得した資産

交換や買換えについての課税の特例を受けている場合には、旧資産の取得の日となります。

 

《資産を譲渡した日》

原則として譲渡契約に基づいて資産を相手方に引き渡した日とします。しかし、引渡しの済んでいない資産であっても、譲渡契約の効力発生の日をもって譲渡があったものとして確定申告書を提出すれば、その契約の効力発生日をもって譲渡の日とすることができます。

 

《収入金額》

資産の譲渡によって収入すべき金額となります。なお、譲渡代金を金銭以外の物や権利で受け取った場合(交換や現物出資など)には、その物や権利の時価が収入金額となります。

 

《法人に対する贈与・遺贈、低額譲渡の場合の収入金額》

贈与や遺贈(無償での譲渡)、時価の2分の1に満たない低額譲渡の場合には、時価でもって譲渡したとみなされます(上記「1譲渡とは」の《みなし譲渡(未実現のキャピタルゲインに対する課税)》参照)。なお、この場合の時価とは通常の取引において成立する価額であり、相続税・贈与税における評価額である路線価などではありません。

 

《取得費》

資産の取得に要した費用(取得価額)にその後の設備費と改良費を加えた金額です。なお、建物の場合には時の経過とともに価額が減少しますので、取得費から償却相当額を差し引きします。

●取得費に含まれるもの

・購入代金

・購入手数料、立退料、宅地造成費用、登録免許税、不動産取得税

・建物付き土地の建物取壊費用(取得後1年以内の取り壊しなど、土地の利用を目的とした取り壊しに限る)

・土地建物等を取得してから使用開始するまでの期間の借入金の金利(使用後の金利は事業所得や不動産所得の必要経費に含まれる)

●償却費相当額(取得費から控除される)

・事業などに使用していた場合

譲渡時までの減価償却費の累計額

・事業などに使用していなかった場合

(取得価額+設備費+改良費)×90%×(譲渡資産の耐用年数の1.5倍の耐用年数に対応する償却率)×経過年数

【取得費が不明の場合】

収入金額の5%とすることができます。なお、取得費が判明している場合であっても、課税上有利であるならば収入金額の5%とすることができます。

【相続、贈与、遺贈により取得した場合】

その資産を以前所有していた人(被相続人など)の取得費となります(上記の「みなし譲渡」の場合には相続などのときの時価となります)。

 

《譲渡費用》

資産の譲渡のために直接必要な、下記のような費用に限られます。

●譲渡に際して支出した登記、登録に要する費用

●支払った仲介手数料

●運搬費

●譲渡のために借家人を立退かせるための費用

●土地を譲渡するために土地の上にある建物を取り壊した費用