利益と法人税8/11

設備投資しても法人税は減らない?

 

築山公認会計士事務所

 

目次

 

 

≪固定資産(減価償却資産)≫

 

固定資産の処理方法(取得価額、償却方法、耐用年数の決定)は利益の状況に

長期間しかも重大な影響を及ぼします。当然正確な処理を心がけなければなりませんが、

それには見積書、契約書、請求書、領収書などの資料の入手と保存が必要です。

 

法人税法における固定資産のルールは体系的で詳細であることから、企業会計においてもこれに依存しているのが実情です。なお、法人税法における固定資産についてのルールは会計理論だけでなく国の経済政策(景気対策)に大きく左右されます。特別償却や圧縮記帳(取得価額の圧縮による課税の繰延べ)がその典型です。

 

 

1 固定資産とは

 

(1)企業会計における固定資産

いうまでもなく、現行企業会計は発生主義を根本原則としています。発生主義においては費用の認識を支出の時点で行うのではなく、財貨や役務が消費されてはじめて費用として認識します。これは、現行企業会計が企業の継続を前提に、人為的な会計期間における合理的な期間損益計算を行うことを目的としていることによります。

ある支出が2会計期間以上にまたがって費用となる場合(財貨や役務が消費される場合)、期間損益計算においてはそれを各会計期間に配分しなければなりません。ある財貨や役務を購入するための支出が行われ、その財貨や役務が直ちに消費されない場合には、その支出金額を資産勘定として記録しなければなりません(現金預金や売掛金のような貨幣あるいは将来的に貨幣になる「貨幣性資産」に対して、このような資産は将来の費用となるので「費用性資産」と呼ばれることもあります)。固定資産はこのような支出の典型であり、有形固定資産(土地、建物など)、無形固定資産(特許権、商標権など)、投資その他の資産(有価証券、貸付金など)に分類されます。(固定資産の中には、土地や有価証券のように消費されないことから費用配分の対象とならないものがあります。)

 

(2)法人税法における固定資産

法人税法における固定資産は次のとおりです。

●土地および土地の上に存する権利

●減価償却資産

●電話加入権

●その他上記に準ずる資産

 企業会計と同様にすべての固定資産が費用化されるわけではなく、減価償却資産のみが費用化の対象とされています。

 

2 減価償却資産(法人税法において減価償却の対象となる資産)

 

法人税法における減価償却資産は、その使用または時の経過により、その価値または効用が徐々に減少してゆく次の資産をいいます。

 

(1)有形固定資産

●建物および附属設備(冷暖房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備)

●構築物(ドック、橋、岸壁、さん橋、軌道、貯水池、坑道、煙突その他土地に定着する土木設備または工作物)

●機械および装置

●船舶

●航空機

●車両および運搬具

●工具、器具および備品(観賞用、興行用その他これらに準ずる用に供する生物を含む)

 

(2)無形固定資産

●鉱業権(祖鉱権、採石権を含む)

●漁業権(入漁権を含む)

●ダム使用権

●水利権

●特許権

●実用新案権

●意匠権

●商標権

●ソフトウェア

●育成者権

●営業権

●専用側線利用権

●鉄道軌道連絡通行施設利用権

●電気ガス供給施設利用権

●熱供給施設利用権

●水道施設利用権

●工業用水施設利用権

●電気通信施設利用権

 

(3)生物(例)

牛馬、果樹などの一定の生物

 

《減価償却資産から除かれるもの=非減価償却資産》

法人税法においては、次のとおり「時の経過により減価しない固定資産」「事業の用に供されていない固定資産」は減価償却資産に該当しないとしています(減価償却することができません)。減価償却が費用化の手続である以上当然のことです。

【時の経過により減価しない固定資産】

●土地および土地の上に存する権利

●電話加入権

●立木(果樹などを除く)

●書画骨とう(複製などの単なる装飾用のものを除く)

【事業の用に供されていない固定資産】

●遊休設備(常時稼動可能な状態に維持補修されているものを除く)

●建設中の資産

●貯蔵中の資産

 

3 減価償却の意義とその方法

 

(1)減価償却の意義

特定の固定資産が減価償却の対象であるならば各会計期間に費用化(配分)しなければなりません。しかし、各会計期間に費用化する金額をどのようにして計算するかは大変難しいです。というのは、その固定資産が何に関連して使用され、どのようにして減少してゆくかを把握するのが極めて困難であるからです。

とはいうものの、その固定資産が「時の経過」や「利用」にともなって価値が減少してゆくのは明らかなので、企業会計上は次の方法が合理的であるとされています。

 

(2)時の経過を配分基準とする方法

時の経過を配分基準として減価償却を行うには、その固定資産の使用可能年数を見積もらなければなりません。この使用可能年数を「耐用年数」と呼びますが、耐用年数はその固定資産の「物質的減価」「機能的減価」の双方を考慮しなければなりません。固定資産は時の経過に応じて使用されることで「消耗し」(物質的減価)、さらに、新設備の出現や経済情勢の変化によって「陳腐化」(機能的減価)するからです。

●定額法

毎期一定額を費用化する方法です。前述の物質的減価に着目するならば一般的には合理的な方法です。

●定率法

毎期、固定資産の帳簿価額(取得原価−減価償却累計額)に一定率を乗じた金額を費用化する方法です。昨今のように製品のライフサイクルが短い状況下では、投資の初期段階で費用化される金額が多くなることから合理的であるといえます(前述の機能的減価を反映しています)。

 

(3)利用を配分基準とする方法

「生産高比例法」と呼ばれる方法です。この方法を採用するには、その固定資産の総利用量と事業年度ごとの利用量が把握できなければなりません。

 

4 法人税法における減価償却の方法とその特徴

 

法人税法においては、企業会計における減価償却の考え方を尊重しながらも、租税についての法律関係の画一的処理を図るため詳細な定めをしています。(減価償却の額を把握する絶対的な方法はありません。そこには一定の仮定が存在し、その仮定を継続して用いることが必要です。)

 

(1)減価償却の方法が一定されている(償却限度額がある)

●定額法

取得価額×耐用年数に応じる定額法の償却率=償却限度額

毎期の償却額が同額(定額)となります。

●定率法

期首の帳簿価額(取得価額−すでに損金の額に算入した償却額)×耐用年数に応じる定率法の償却率=償却限度額

毎期の償却額が一定割合で逓減していきます。なお、償却率は償却終了後に帳簿価額が残存価額に一致するように設定されています。

【参考】耐用年数に応じる償却率、2年(1.000)、3年(0.667)、4年(0.500)、5年(0.333)・・・・・

定率法ではこのほか「調整前償却額」「保証率」「償却保証額」「改訂取得価額」「改訂償却率」という概念が登場します。これについては、末尾の【重要】平成19年度税制改正をご覧ください。

●生産高比例法

鉱山などで用いられている鉱業用減価償却資産についての方法です。

●リース期間定額法

リース資産についての方法です。

●取替法

鉄道のレール、まくら木など取替資産についての方法です。

 

(2)選定できる方法が資産ごとに定められている

上記(1)の方法のどれでも選定できるのではなく、減価償却資産の種類に応じて選定できる償却方法が定められています。選定した償却方法は一定の期限までに税務署長に届出なければなりません(たとえば、新たに会社を設立した場合には設立初年度内に届出なければなりません)。また、償却方法を変更する場合には変更する事業年度開始の前日までに届出なければなりません。なお、償却方法の選定についての届出をしなかった場合には定率法となります(建物については定額法です)。

●建物

定額法(平成10年4月前に取得したものは定率法によることもできます)

 ●建物附属設備および建物以外の有形減価償却資産

 資産の種類または設備の種類ごとに定額法か定率法のいずれか(事業所ごと、船舶の場合には一船ごとに選定することもできます)

 ●無形減価償却資産および生物

 定額法

●営業権

定額法(平成10年4月前に取得したものは自由に償却できます)

 

(3)耐用年数が個々の資産ごとに詳細に定められている

●基本的な法定耐用年数

建物、建物附属設備、構築物、車両及び運搬具、器具及び備品について資産の構造・用途別に、機械及び装置については設備の種類別に、無形減価償却資産については資産の種類別に耐用年数が定められています。

●鉱業権および坑道の耐用年数

●特殊な減価償却資産(汚水処理、ばい煙処理など)の耐用年数

●中古資産の耐用年数

事業の用に供した以後の使用可能期間を見積もります。しかし、それができない場合には法定耐用年数の20%(法定耐用年数の全部を経過している場合)、あるいは(法定耐用年数−経過年数)−経過年数×20%(法定耐用年数の一部を経過している場合)とします。

●耐用年数の短縮

一定の条件に該当する場合には、税務署長の承認を受けて耐用年数を短縮することができます。

 

(4)任意償却であること(減価償却しなくてもよい)

法人税法においては減価償却することを強制していません。つまり、会社が自ら償却費についての「損金経理」をしない限り償却費の損金算入はないということです。たとえば、現に使用している機械の償却を除却するまで一切せず、その機械を除却した際に簿価(取得価額)相当額を費用処理してもよいということです。

【償却しない場合は会社法違反!!】株主への配当可能利益の算出を主目的とする会社法の計算規定においては、減価償却が強制されています(費用化を先送りして配当することは許されない)。しかし、会社法の規定に反して、金融機関との関係上、あるいは将来の黒字決算に備えて減価償却をしていない企業(特に中小零細企業)があります。

 

(5)少額な減価償却資産は一時に償却できる

「使用可能期間が1年未満の減価償却資産」「取得価額が10万円未満の減価償却資産」は、これを事業の用に供した事業年度において、その取得価額の全額を一時に損金の額に算入することができます。(当然、通常どおりの減価償却をすることもできます。)

 

(6)取得価額が20万円未満の減価償却資産は1事業年度に購入した個々の資産を合計して一括して償却できる(一括償却資産)

取得価額が20万円未満の減価償却資産(上記(5)の少額な減価償却資産は除く)は通常の減価償却の方法によらないで、事業の用に供した事業年度ごとにその全部または特定の一部を一括して(取得価額を合計して)3年間で均等に損金の額に算入することができます。

(例)ある事業年度に、パソコン15万円、電話機15万円を購入し、これらを一括償却資産として処理する場合には、30万円(15万円+15万円)÷3年=10万円を3事業年度にわたって損金の額に算入します。

 

(6)増加償却

使用可能期間が通常を超えている場合には、税務署長の承認によって償却限度額を増加させることができます。

 

(7)特別償却

経済政策の観点から通常の償却限度額を超えた各種の特別償却が認められています(償却限度額=普通償却限度額+特別償却限度額)。

 

5 減価償却の計算の単位

 

償却限度額は次のとおりの個々の資産をグループに分けて計算します。

 

●減価償却資産の種類ごと(建物、建物附属設備など)

●上記の耐用年数が同じもの

●上記で償却方法が同じもの

 

個々の資産に償却超過額や不足額があっても、グループ単位で通算するということです。

 

6 償却超過額、償却不足額の扱い

 

法人税法における償却限度額は、償却費として損金経理した金額のうち法定された償却方法により計算した金額以内つまり償却限度額以内となります。

 

(1)償却超過額がある場合

償却費として損金経理した金額が償却限度額を超える(申告書においてその超過額を加算します)場合には、その超える金額が減価償却資産の帳簿価額(取得価額−償却累計額)から減額されなかったとして翌期以降の償却限度額を計算します。

 

(2)償却不足額がある場合

償却費として損金経理した金額が償却限度額に満たない場合には、その満たない金額は損金の額には算入されません(申告書においてその不足額を所得金額から減算することはできません)。

 

7 減価償却資産の取得価額

 

減価償却資産は長期にわたって使用されますので、まずはその取得価額(購入などの際の価額)を正確に把握することが極めて重要です。

 

(1)購入の場合

「その資産」の「購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他その資産の購入のために要した費用を含む)」と「事業の用に供するために直接要した費用」を合計した金額となります。

【ご注意】請求書や領収書を分割すれば、減価償却の対象とはならず購入時に費用処理できると考える人がいます(購入費用を早期に費用とできる)。しかし、「その資産」の「購入の代価」と「事業の用に供するために直接要した費用」はどれだけ分割して払おうが同じです。つまり、支払方法はどうであれ取得価額は同じであるということです。

 

(2)自家建設の場合

適正な原価計算基準に従って計算した金額を取得価額とします。自家建設に要する費用は様々でしょうが、自家建設のために特別に要した支出(材料代など)は当然として、通常ならば支出のあった会計期間に費用とされていた(資産として計上されなかった)ものも取得価額に含めなければなりません(人件費や家賃など)。

 

(3)贈与を受けた場合

公正な評価額を取得価額とする必要があります。固定資産の贈与は企業にとって収益となりますので、資産の計上と同時に同額の収益が計上されることになります。

 

 

固定資産の減損処理

 

減損とは固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とはそのような場合に一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。例えば、ある機械が製造する製品の販売量が当初予想していたよりも減少し、もはや投資額の回収が見込めなくなった場合には、それが判明した事業年度に帳簿価額(投資額から減価償却累計額を差し引いた金額)を回収可能な価額まで減額する必要があります。なぜならば、その機械が生み出す収益で投資額を回収できない原因がすでに生じているならば、それを損失として認識することは発生主義会計においては当然だからです(減損処理をしないならば損失を先送りすることになります)。

 

固定資産の評価

 

減価償却は費用配分の手続であって、固定資産の評価の手続ではありません。資産の評価とは、資産の帳簿価額に市場価格の変動を考慮することであり、有価証券や棚卸資産においてこれが行われます。減価償却が行われる固定資産については「取得原価主義」が採用されており、その取得原価が費用配分されます。なお、上記の減損処理は固定資産の評価ではなく取得原価主義において行われる帳簿価額(取得原価)の臨時的な配分であります。

 

 

【重要】平成19年度税制改正

 

平成19年に減価償却に関する抜本的な改正が行われました。改正前の減価償却を知っている人は大変戸惑うと思いますので、以下でまとめておきます。

 

償却可能限度額および残存価額という考えがなくなりました。

 

平成19年4月1日以降取得する減価償却資産から、償却可能限度額および残存価額という考えがなくなり、取得価額の全額を償却することができるようになりました。(ただし、備忘価額として1円は残しておかなければなりません。)国際的にはこの方法が一般的で、わが国もようやく国際標準を採用したということです。なお、平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産が償却可能限度額に達した場合にも、一定の方法で全額を償却することができます。

 

定率法の計算方法が変わりました。

 

定率法の計算要素として下記の概念が加わりました。

 

(1)調整前償却額

期首帳簿価額に償却率を乗じた額をいいます。

(2)保証率

取得価額に乗じる定められた一定の率で、これにより下記(3)の償却保証額を算出します。

(3)償却保証額

取得価額に保証率を乗じた額をいいます。

(4)改訂取得価額

(1)の調整前償却額<(3)の償却保証額となった事業年度の期首帳簿価額のことです。

(5)改訂償却率

(4)の改訂取得価額に乗じる定められた一定の率です。

 

定率法による償却限度額は、各事業年度の調整前償却額と償却保証額の大小によって下記のとおり変わってきます。

 

●調整前償却額≧償却保証額である事業年度

期首帳簿価額×定率法の償却率→従来と同様です。

●調整前償却額<償却保証額である事業年度(償却が進んでからの事業年度)

改訂取得価額×改訂償却率→以後は定額の償却となります。 

 

「旧定額法」と「旧定率法」

 

改正前(平成19年3月31日以前)に取得した減価償却資産については従来の方法によらなければなりません。従来の方法をそれぞれ「旧定額法」「旧定率法」と呼び耐用年数も改正後の方法とは別に定められています。

 

 

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